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「そうか…よく話してくれたな。仲俣さん。島田さんも、大場さんも。ありがとう、よく説得してくれた。この通りだ。」
半沢は椅子から立ち上がって、深く頭を下げた。
隣に座っていた若林もそれに倣う。
「いえ…今さらかもしれませんが…本当に申し訳ない事を…何と皆さんに謝ればいいのか…」
仲俣は手の中のハンカチを強い力で握りしめていた。
その手が小刻みに震えている。

「しかし…部長。この事が公になったら…仲俣さんは…」
「構いません。私はしてはならない事をしたんです。罪は…罪は償わなくてはならないんです。」
仲俣の話は、ある意味半沢の思い描いていたそのものだった。

AKB48を卒業しなさい。

秋元康からそう言われても、仲俣にはそんなに驚きの感情が湧いてこなかった。
むしろ、ほっとしたと言っても良かったかもしれない。
メディア仕事どころか、新たに編成されたチームの中で劇場公演の出番すら巡って来ない。誰のアンダーでも出れるよう必死にポジションを覚える気力もわいてこなかった。何となく日々を過ごしていた自分が卒業勧告を受けるのは当然だと。

真面目に学校に通って普通に就職するのも悪くないかな?そうだ…アナウンサーなんてどうだろう?お天気キャスターの真似ごとだってしてたし、元AKBってブランド力もある。だったら…
数日置かずして返事を持って行った私に、話を持ちかけてきたのは戸賀崎さんだった。お前がその気なら、このAKBグループの浮沈を担うような仕事をしてもらう事も可能だ。アイドルとして芽が出なかったのなら、どうだ?そのアイドル達を動かす仕事でリベンジを果たしてみないか?

戸賀崎さんの言葉は、まるで魔法のように私の心を捕えて離さなかった。
私は、大学に通う傍ら会社が用意してくれた個人指導で徹底的に経済学の知識を叩きこまれた。
寝る時間以外、全てを勉強の時間に充てる事は全く苦にならなかった。まるで乾いたスポンジに水がしみ込んでいくように私の中にナレッジが吸収されいく事がたまらない快感だった。
そして、いつしか戸賀崎さんはその知識とともに、私にある感情を植え付けてもくれていた。

「野心」だ。

秋元先生がお金に困っている事はわかった。
なんでそうなったのかは良く分からない。でも…それを救える事が出来る。
その時の私には、その力が身についていた…そう信じていた。
そして、それを実行すれば、私の立場は秋元先生の中で間違いなく大きく、そして重要なものになる。

迷わなかった。
そして、言われるがままに決算書や色んなデータを塗り替えていった。
一つ嘘をつくと、その嘘を守る為にまた新しい嘘を重ねなくてはならなくなる。
ドミノ倒しのような、嘘の連鎖の辻褄をいかに合わせるか。
それを大人達は「理論武装」と呼んだ。
私は、大人達の思惑の中に組み込まれていった。

「君を指導していたのは、野山證券のチームだったんだな?」
「はい…」
仲俣が小さな声で頷いた。
「野山證券は秋元先生の負債を消すには、もうAKSの公開しかない…そう言っていました。私もそう思いました。でも…確かにAKSは今のエンターテイメント界を席巻しています。誰もが、その売り上げや利益が公開企業に相応しいものであるに違いない。そう思うはずです。ところが…」
「その実態は、脆弱そのものだった…」
「はい。そして、私達はそれを徹底的に隠そうと手を講じました。いえ…手を悪事に染め抜いたんです。そして、幾重にも偽りの装飾を施したものを…」
「東京セントラル証券に濡れ衣を着せる事にした。こっち側にも共謀者がいたんだ。それ位は他愛もない事だったんだろうな。」
半沢は身を乗り出しながらも優しい口調で仲俣に言った。
笑顔も浮かべている。

「どうして…打ち明けようと思ってくれたのかな?黙っていれば、君達の勝ちは揺るがなかっただろう。事実…ゲームはもう終盤。9回裏2アウトランナー無し。2ストライクの局面だ。点差は…そうだな。7点差ってとこかな。」
「はるぅと…みなるんに怒られました。」
「君達が?」
島田と大場が笑顔で半沢を見た。
「島田。その顔つきはまだ早いって。そんなドヤ顔はちゃんと勝ってから見せるもんだよ。」
「ええ?私、ドヤ顔なんかしてないって。ねえ、半沢さん。」
「いや…それが君のいいところじゃないか。変わってなくて嬉しいよ。」

「はるぅだけじゃない…はるぅは私の先輩なんです。でも、ずっとずっと一緒に頑張ってきた仲間。大切な友達。みなるんもそう。でも、そんな風に思ってたのは自分だけなんじゃないかって。一人だけ先に卒業しても、誰も私の事なんて構ってられないんだろうなって。私は、そんな事すら見えなくなっていたんです。」
「馬鹿野郎!ってね。ね?いつも大声で怒鳴ってたのは私だけど、いざって時は大場が一喝した方が効きめあるんだよね。」
「まあ、一応キャプテンやってたからね。」
「真っ先に居なくなってたくせに。」
「その話は関係ないでしょ?今は。」

このやり取りなんだ。
私が大好きだったチーム4。離れてても、あの時頑張った事は必ず活きる。
いや、活かさなきゃいけなかったんだ。
リクアワのステージで沸き起こったチーム4コールは、恵まれなかった過去への同情なんかじゃない。
未来へのエールだったんだ。

はるぅを見たらわかる。はるぅだけじゃない。
卒業したメンバーはみんな歯を食いしばって頑張っている。
誰もが元AKBって事に誇りを持って。

私がやるべき事は、大人たちのこんなつまらない思惑に手を貸す事なんかじゃないはずだ。

「部長。仲俣さんに証言して頂きましょう。物証はありませんが、話の辻褄は確かだ。徹底的に戦えば、SECも野山の不正行為を不問には出来なくなるはずです。そうしたら、ウチの責任も…」
「若林。ウチの責任は消えないさ。主幹事として公開引受を申請・実行したのはほかならぬウチなんだからな。しかし…絶対にこのままじゃ済まさない。仲俣さんの勇気は絶対に無駄にはしない。」

狭い部屋に仲俣のすすり泣きが響き始めた。
この子は確かに罪を犯した。
彼女が言うように罪は償わなくてはならない。
しかし、もっと大罪を犯した者がいる。
そいつらこそ、罰せられるべきなのだ。



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