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半年後…

半沢がデスクの上のモニターをぼんやり眺めている。
午前中は顧客とのやり取りの電話を取る者や、業務の打ち合わせに慌しく動き回っている者で騒然とした雰囲気の企業部のフロアも、午後からは落ち着きを見せ始める。特に今日は相場の大きな変動もない。営業部と違い日々の強烈なノルマに負われる事がない企業部には、時々こんな風にぽかんと安穏とした雰囲気が訪れる事がある。

「半沢部長。」
いつの間にか目の前に若林が立っていた。
「おお、若林か。どうだ、事法の空気にはもう慣れたか?」
「いや~全然勝手が違いますね。こちらは研究生。むこうは正規メンバーといった感じでしょうか。まあ、プロ相手に毎日鍛えてもらっていますよ。」
「もともとお前がやりたかった仕事により近いのは、企業部よりも事法だろう。しかも、次長に昇進したんだから何よりじゃないか。」

AKSの一件のすぐ後、若林は第一企業部から第二事業法人部へと異動となった。次長に昇進しての異動。同期入社では一選抜での出世だった。公開前の企業開拓をミッションとする企業部に対し、公開済みの大企業のファンナンスに関わる事が多くなる事法の業務は、もともとメガバンクを志望していた若林にとっては非常にありがたい異動であった。

「今日も下がってますね…公開初日こそ、公募価格を上回ったけど、その後はジリ貧ですか…アナリストの評価も余り高くないですね。部長の指摘は本当に正しかったのに。このままじゃ、グループ自体の勢いは止まっていないのに、株価のせいでAKBはもう終わったって評判になっちゃうかもですね…」
「まったくだ。いや、それを嘆いても今更始まらないさ。結局は俺の力不足だったんだ。あの時にIPOを食い止める事が出来なかった俺のな。」
半沢が手元のキーボードを叩いた。AKSの株価チャートが表示される。
「自分の力不足に情けなさしか感じんよ。まったく。」
「そんな事ありませんよ。あそこで部長が声を上げなかったら、もっと悲惨なことになっていましたよ。今じゃSKEの存在は本店と同等か、もしくは上じゃないですか。アナリストレポートにもありましたよ。姉妹グループの存在とその発展性、及び本体との競争が唯一の明るい方向性だって。部長が文字通り体を張ってそれを守ったんじゃないですか。それがわかってるからこそ、あそこまで暴れても何のお咎めもなかったんじゃないですか?」

「だが…俺は、島田さんとの約束を果たせなかった。」
半沢は表情を変えずモニターを見つめた。
「それもこれからですって。それに、AKSももう少ししたら企業部の扱いを外れるでしょ?事法に移ったら、僕が志願して担当させてもらいますよ。そしたら一緒に…あ、半沢さん、今度は事法の部長になってくださいよ。」
「お前な、そんな事を軽々しく…」
「まあ、幸いまだストックオプションの行使価格は大きく上回っています。もうすぐ行使期間が始まるでしょ?少なからずの資金を得る事っていうのは彼女達にとって悪い事ではないでしょう。」
「まあ…な。」

その時、半沢のデスクの電話がけたたましく鳴った。
まるで、何かの予兆のような鳴り方に思えた。

「はい、半沢です。あ、これは社長。はい。え?何ですって?わかりました。すぐ伺います。」
「社長ですか?秘書からでなく直接?」
「ああ、よほどの事なんだろう。すぐ来いってさ。」
「どうしたんですか?」
「SECが入るそうだ。査察らしい。」
「SEC?臨店じゃなくて、いきなりSEC?しかも企業部にって…」
「わからん。とにかく行って来る。若林、またな。」

半沢は社長室のフロアへ向かった。

社長室には重い空気が漂っていた。
半沢が部屋に入ると、ソファに座った男が意味ありげな笑顔を向けてきた。半沢に驚きの表情が浮かぶ。

「お久しぶりね。本当は、会いたかったわって言うところだけど、そんな事は言ってあげない。アンタの顔なんて二度と見たくなかったわ。でも…どうやら、アタシ達、腐れ縁みたいね。」
男が差し出した名刺には、半沢自身余り見たくない名前が印字してあった。

金融庁 証券取引等監視委員会 
主任監査官 黒崎 駿一

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