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「ちょ…ちょっと、あかりん…空気読みなよ…」
澄ました顔で携帯のカメラに向かってポーズを取る須田を、高柳明音が肘でつつく。
えへっ…そんな顔で須田が舌を出して笑った。

そうだ、須田さんがいた。
須田さんならきっと同意してくれる。
そう、ある意味一番野心を持っているのは須田さんに違いない。
「あの…須田さん。須田さんはどう思いますか?きっと、AKBに入ると…」
「え?あかり?う~ん、奈和ちゃん、あかりはいいや。」
「いいや…って。あの…須田さんはもっと上に行きたいっていつも…」
「上?うん。そりゃそーだよ。あかりってもっともっと出来る子だと思うしぃ。ね?ちゅりさん」
須田の反応にとうとう古畑は泣き出してしまった。
ためていた涙がつーっと頬を伝う。

「あかりん、もう。ちゃんと話してあげなよ。」
「あらららら…ごめんごめん奈和ちゃん。」
高柳に言われて須田が頭を掻いた。
「あのね、奈和ちゃん。私は絶対に絶対に一番のアイドルになるって決めてるんだ。
でも、それはね、私一人でじゃないよ。私は見てきたんだ。
先輩たちがどんな思いでこのSKEを大きくしようと思って頑張ってきたのかを。
辞めていった先輩たちもそうだった。そして、今いる先輩たちもそう。」

須田が急にまじめな顔になって話し始めた。一人称が「私」に変わる。
「私とゆりあとゆっこはね、そんな無茶苦茶厳しい環境の中でひたすら鍛えられたの。
怖かったなぁ。ね?ゆりあ。」
「そうなんだよね。カツヲが鬼みたいでね。あ、カツヲとか言ったら怒られるわ、ヤバ。」
木崎ゆりあが辺りを見渡した。その場の空気が少しだけ和らいだようになった。

「でも、私は奈和の気持ち、少しはわかる気がするよ。」
意外な所から助け船が出た。高柳だ。
古畑が今回の話で一番の難敵と考えていたのがこの高柳だ。
何しろチーム愛が服を着て歩いているような人なんだから。

「ちゅりさん…」
古畑の顔はもう涙でぐちゃぐちゃだった。
「わかる気はする。気はね。必死なんだよね?奈和も兼任してもう1年か…
それ以来、色んな所で色んな意味で期待されて。
プレッシャーもあったんだってわかるよ。すごく。でもね…」

「はい…」
古畑は力なくうな垂れた。もう駄目だ。
失敗だ。きっと、役割を失敗した私はもうあの人達に信頼される事はないだろう。
ましてや、裏切るような事をした私をこの人達が許してくれる訳もない。

「あのね、私たち、みんなSKE48が大好きなの。」
高柳の言葉に皆が笑顔で頷いた。

ああ…そうだ。この笑顔だ。
私は何を見失っていたんだろう?
私が魅かれたのはこんな風に笑ってる先輩だったはずだ。
今の私、絶対にこんな風に笑えていない。きっと卑屈な笑顔のはずだ。

「すみませんでした…私、皆さんに謝っても謝りきれない事を…皆さんだけでなく、色んな人を…もう、私…」
古畑が立ち上がって深く頭を下げた。そのままその場を去ろうとする。

「奈和。」
「…」
松井玲奈の声に古畑はその場に立ち止まった。振り返る事はしない。
玲奈はその背中にむかって語りかけた。
「奈和も聞いたよね?あの大歓声。感じたよね?あの熱気。」
玲奈が何を言いたいのか痛いほどよくわかる。
さっきまで、何でこんな簡単な事に気づけなかったのだろう?
あのナゴヤドームでのSKEコール。永遠に途切れることがないかと思えたメンバーへの大歓声。
私の名前を呼んでくれている人もいた。そう、それは紛れも無くSKE48チームEの古畑奈和への声援だ。
私は、あの熱気を失う引き換えに何を手に入れようとしていたんだろう…

「奈和…ね、奈和は私達の事が嫌になったの?」
涙声で詰まりながら声をかけたのは、菅なな子だった。
「嫌になったから…じゃないよね?そうじゃないよね?だから、こうして…
奈和なりに私達の事を考えてのことなんだよね?」

なな子…そんなわけないじゃん。私が自分の得になるからって思っただけに決まってるじゃん。
それに…人のことなんか構うな…指原さんにはそう言われてたし。
まったく、大体アンタはいつだって人の心配ばっか。
自分がどんなに疲れてても、いっつも奈和疲れてない?奈和大丈夫?って。
始めて私が選抜に選ばれた時だってそうだった。何かと世話ばっかやいちゃって。
お弁当はここだよ。集合時間は何時だから何時に起きなきゃ駄目だよって。

大好きだよ。私はそんななな子の事が大好き。
でも、私はそんな大切な親友を裏切ったの。
それが、古畑奈和ってオンナなの…

「奈和。明日は公演だからね。しかも昼夜2公演。久しぶりにフルメン揃うんだから。
泣きはらした目で出てこないように、今夜はちゃんと目をアイシングして寝ること。いいね?
ああ~私お腹すいちゃった~。誰か何か持ってない?」
「あ、玲奈ちゃん、私もお腹すいたぁ~ねえ、これからラーメン食べに行こうよ。」
「やだ、真那。さすがにこの時間からラーメンはないでしょ?」
「ええ?なんで?」
「なんでって…普通じゃない?誰か行こうよぉ。奈和は?行かない?一人ラーメンやだぁ。つきあってよぉ」

「玲奈さん…真那さん…私、もうみなさんとは…」
「奈和。悪いと思ってるなら、全部ステージで返して。ごめんとか申し訳ないとかいいから。
そう教わった来たんでしょ?」
玲奈が片目をつぶって笑った。

古畑がその場に泣き崩れた。
「ほら。立つよ。真木子さんに怒られるよ。ステージで泣き言言うなって。」
「うん。うん。うん…」


「若林、ホテル取っといてくれたよな?行くぞ。」
「え?会っていかないんですか?わざわざ飛んできたのに。」
劇場のドアを半分だけ開けて、そば耳を立てていた半沢と若林だったが、事の収まりを見定めるとそっとそのドアを閉じた。劇場のエントランスに向かい歩き出す。

「もう会ってどうこう言わないでもいいだろう。お前も聞いてたろ?もう大丈夫。
俺たちがやる事はもうなくなったよ。」
「ええ…そうですが…わざわざ名古屋まで来たのに。」
「おお、明日一番で芝さんに電話入れておいてくれ。昼公演の関係者席入らせてくれないかって。
見たいと思っていたんだよ。E公演。」
「まったく…わかりましたよ。」
半沢が苦笑する若林の背中を叩いた。

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