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東京セントラル証券の本社は、銀行のそれとは違い丸の内の高層オフィスビルにある。
社長室は役員室の並ぶフロアの一番奥だ。
銀行の由緒正しいが古臭いビルよりも環境的には随分快適なはずなのに、半沢はどことなくチープさを感じてしまっていた。それは、まだ彼が銀行員である事を意味しているのかもしれない。

「入りなさい。」
秘書が社長室をノックするとすぐに中から返事が返ってきた。
「第一企業部の半沢部長がお越しになりました。」
「ああ、ありがとう。半沢君、どうぞ中へ。」
「失礼いたします…」
深々と一礼して視線を上げると、そこには社長の小林と大和田の姿があった。

「社長直々のお呼びとなると、いささか緊張いたします。本日はどのようなお話でしょうか?」
半沢は敢えて大和田を無視するように小林に聞いた。
「まあ、座りなさい。今日は大和田さんにもお越しいただいている。」
「…という事は、AKSの事でしょうか。大和田取締役は随分、AKSにご執心のようですから。」
「半沢君~。そろそろその敵を見るような目線はやめてくれないかな?前にも言ったように、今の私と君の間には共通のミッションで結ばれたパートナーシップがあるではないか。」
「パートナーシップ?あなたの口から出てくるのに最も相応しくない言葉のように聞こえますが?」
「これ、半沢君。失礼じゃないか。」
「申し訳ございません。」
半沢をたしなめる小林の言葉にそれほどの強さはない。二人の関係はグループ内で知らない者がいない程に広まっているというのは事実のようだ。

「さて…では本題に入ろうか。AKSの最終資本計画案の検証は終わった頃かと思うが?」
「ええ。先ほど、最終レビューを終えました。驚きましたよ。秋元氏はあれで納得してるのですか?」
「もちろんだ。自らの保有株の売り出しを多くして少しでも株主数を増やしたい。それが秋元さんのご意向だよ。」
「しかし、大和田取締役。確かに、アミューズメント関連銘柄は個人株主を増やす意味もあって市場に出す株数を増やす事が多いのも事実です。エイベックスなんかがいい例です。だが、それは同時に大きなリスクを抱える事にもなるのは、あなたにもおわかりですしょう?これじゃ、資本上、秋元氏はAKSへの大株主としての発言力を失う事になりかねませんよ?」
「その通り。さすがは半沢君。僅かの間に証券マンらしくなったではないか。そうか、銀行に戻る事など諦めて証券マンとしてキャリアを積むつもり…」
大和田の顔を半沢が睨みつけた。
「は…ないみたいだな、ふむ。」

「しかも、大量の自社及び関連会社持ち株会への割り当て、そして何よりストックオプションの数だ。この規模の会社としては過去例の無い多さだ。公開した後すぐにこのストックオプションの権利が行使されたら…株価は一気に下落しますよ?」
「まあ、そうかもしれないね。何しろ、公開公募株の価格設定は8850円だ。持ち株会はこれを一株50円。ストックオプションでは300円で買える事になるんだからね。すぐに権利行使して転売しても、一株当たり8550円も儲かるんだからねぇ。1000株で835万円。一番多く割り当てがある人は1万株あるわけだから、まあ、ちょっとした一財産って事にはなるね。いや、羨ましい。やはり、入社するなら創業期のベンチャー企業に限る。我々銀行員は、億の金を勘定する事があっても手にする事など、なかなかないからね。」

「しかし、当初はここまでストックオプションは大量ではなかったはずです。いったい、どこに割り慌てを増やしたっていうんですか?」
「半沢君。やはり、株式公開時、功労者にはそれなりの見返りが必要ではないだろうか?」
大和田が表紙に「社外秘」とある資料のページを手繰った。後半の方でその手を止め、半沢にそれを見せる。

「こ…これは…大和田さん、そういう事か?」
「ほ?そういう事とは?」
「とぼけないで頂こう。運営側がリストラを画策しているという話しは既にこちらの耳にも届いている。そして、その対象者がリストアップされている事も。しかし、大和田…取締役。彼女たちへの退職金のつもりなのか?公開直前に人員整理を目論むような企業の株式が市場で評価される訳ないでしょう。あなたは、資本市場を甘く見過ぎている。」
「半沢君、君こそ何を勘違いしてるんだ?いいかね。ここにリストアップされているメンバーの名前をもう一度良く見たまえ。今のAKSの企業価値を高めているメンバーがどれだけいると?もう一度言う。彼女たちは福利厚生を図られるべき社員ではない。コンテンツだ。商品なんだよ。価値のあるものをラインナップする。それは、リストラと呼ばない。半沢君、ただの営業上の戦略だ。君らしくないなあ、優秀な銀行員とは思えない。おっと、失礼、今は証券マン…だったな。」

半沢はリストを上から順に目を通していった。
そこに並んでいるのは、確かに人気があるとは言えないメンバーだった。
大和田の言う事に不合理な点はなかった。

「大和田さん、私はこの件に関わってからというもの、ずっと妙な違和感を持ち続けてきました。そして、それは今も消えていません。あなたがいう事ももっともなのかもしれない。私はその違和感が消えるまで、とことんこの件に関わっていくつもりです。」
「あ、そうですか。では、これ以上は何も言うまい。あとはお好きに。小林社長、幾らこの男が何かを嗅ぎまわっても、この話はこれでFIXです。どうぞ、早めに決裁印を押印願いたいですな。」

「大和田さん。」
「まだ何かあるのかね?」
「先ほど、あなたは私の事を銀行員、いや今は証券マンと言った。確かにそうです。ですが、銀行だろうが証券だろうが、企業を見定めるのに大事なのは人を見る事という点では何ら変わる事がない。日本経済の礎を築く仕事に携わってきた自負から、絶対にこの違和感を解消してみせます。」

半沢はそう言って、その場を立ちあがった。
一礼して社長室を後にする。

「まったく…困った男だ。しかし…半沢よ…もう時間はないぞ。」
大和田が口元を歪めて静かに笑った。

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