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「どうした?浮かない顔をして。もっと手柄を喜んでもいいんじゃないのか?」
その日の夜、半沢は若林を飲みに誘った。大変なのはこれからだが、今日くらいは若林の成果を手放しで称えてもいいだろう。何人かの若手も含んだ賑やかな宴のあと、静かなバーに二人で腰を下ろした半沢は若林に切り出した。
「部長。部長は僕の頑張りが報われたって言ってくれましたよね?」
少し酔っているのだろうか。若林の口調がいつもと少し違う。
「ああ。これは間違いなく君の手柄だ。主幹事宣言書を受け入れた事で君の今期の査定は大いに期待できるものになるだろうしな。」
「はっ?査定ですか。意味がないっすね」
「意味がないって事はないだろう?ボーナスだって増えるし、昇進にだって影響がある。」
「ボーナス?昇進?そんなもん興味ないです。そうだ、昇進ってなら僕の事、銀行に連れてってくださいよ。部長が銀行に戻れるんだったら…ですけど。」
「おいおい、お前って結構皮肉言うんだな。俺だってまだ先を諦めた訳じゃない。絶対に俺は…」
絶対にあいつらを見返してやる。やられたら…そう言いかけて半沢は言葉を止めた。
なぜだろう?今、その言葉を言うべきではないと感じたからだ。

「しかしなあ、若林。冗談抜きでもっと胸を張っていい成果だと思うぞ?」
半沢はグラスの中のバーボンを一気にウトウト飲み干した。同じものを…バーテンに目線だけで伝える。
「部長はやっぱり銀行員ですよ。結果論やラッキーで取れたけいやくなんて何も嬉しくないっす。」
「結果論?」
「だいたい、AKSの主幹事は野山で確定だったんですよ。株式公開をそのメリットから何からきっちりトップに落とし込んでその気にさせたのも野山證券だ。ウチは所詮そのおこぼれにあずかって、2番手か3番手の副幹事が取れれば御の字くらいに思っていました。それに、年間に何社の主幹事をウチが取れてると思います?去年なんて4社ですよ。たったの4社。全国の企業部員があくせく営業して4社。それなのに、なんの工夫もしてないトコの主幹事がこんな簡単に取れてしまう。違う。何かが違うんです。」

半沢は若林の言葉を意外な思いで聞いていた。
自分の手柄になるのであれば、それがどんなラッキーであっても、さも自分の手柄のようにアピールする事は銀行ではごく普通の光景だ。中には、部下の手柄は上司の手柄。上司の失敗は部下の責任と大手を振って吹聴する者までいるのだから。
「なあ、若林。お前はなんで証券マンになろうと思ったんだ?」
半沢は話の方向性を微調整しようと試みた。
「証券になんて行きたくて行ったんじゃないですよ。僕だってメガバンクに入りたかった。でも、当時の就職環境じゃ無理だったんですよ。バブルは弾けちゃった後だし、大学は三流だし。」
「そうか。そうだったのか。」

銀行だってそんなにいいもんじゃないぞ?そう慰めようと思ったが、半沢はその言葉を引っ込めた。
いや、俺はまだ諦めた訳でもなんでもない。
「若林。この案毛、本当の意味でお前の手柄にしてやろうじゃないか。」
「はい?」
「銀行には銀行にしか出来ない事がある。だが、証券には証券にしか出来ない事もあるんだよ。企業を育て、日本経済に貢献するスケールの大きな仕事はどうやるかって事を俺がとことん教えてやる。大丈夫だ。俺を信じろ」
若林が手元のグラスを目元に当てる。まるで頭を冷やしているかのように。
「すみません。お水をください。」
「おい、もう飲まないのか?」
「いえ、もういいです。今日はご馳走様でした。明日の朝一番で打ち合わせおねがいします。それまでに、必要資料を全部用意しておきますので。あ、部長もせめてAKBの事くらいは知っておいてくださいよ。DVDとかもし必要ならお貸ししますから。」
若林の言葉に半沢が笑みを浮かべる。
「では、すまないが博多の分だけ頼もうか。そこまで俺も手を広げてはいないからな。」
若林がちょっと驚いた顔になる。
「参ったな。」

若林が笑った。今までに見せたことがない屈託のない笑顔だった。

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Comment

No title

AKS主幹事を勝ち取った一方でSKEメンバーがどう半沢直樹と関わっていくのか楽しみです。

2013.10.16 (Wed) | 杉上左京 #- | URL | Edit

No title

>>杉上さん
ありがとうございます。

2013.10.17 (Thu) | 四谷 #JRF4jLPA | URL | Edit

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