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「部長、次が僕の本命先なんですけどね。ここまで食い込むのに結構大変な思いしてるんですからね〜」
半沢は部長車の後部座席で、得意げな表情で話す若林正恭の声を聞きながら、窓の外をぼんやりと眺めていた。この若林という男…いや、若林だけではない。証券マンという人種は同じ金融機関でありながら銀行員とは全く違う。上司相手に特に媚び諂う訳でもない。口調も上役を前にした緊張感があまり感じられない。かといって無礼かというとそうでもない。どこか、やんちゃな印象の人間が多かった。

株式公開予備軍として有望な企業を、そのフィニッシュに向かって育て行くといった意味合いを持つ企業部の仕事は、銀行で培った半沢のキャリアを存分に発揮出来る場所でもあった。
半沢が部長を務める第一企業部は主に都内の中堅企業を担当し、20名の部員が所属する。3つの課に分かれており、3人の課長がいる。若林はそのうちの一人だ。30代半ばで課長になる事は東京セントラルでも比較的順調な出世を果たしてるといっても良い。ただ、証券会社の課長職は銀行のそれとは違い、まだまだ現場職として動く事が圧倒的に多い。

「なんだ、あっちに行くんじゃないのか?」
半沢は小洒落たインテリジェンスビルの前で車を降り、若林に近くにある雑居ビルを指差して言った。
「部長、ひょっとして劇場の事言ってます?本社は随分前にこっちに移ってるんですよ。」
「そうなのか。なるほど。」

エレベーターで上層階に上がると、若林はなれた足取りでエントランスに入り、受付の女性に馴れ馴れしい態度で話しかける。ちょっとした笑い声がシックなエントランスに響く。
「部長、こっちです。」
若林が笑顔で半沢を受付の奥に呼んだ。

「若林…」
「はい、なんでしょう?」
広い応接に通され、見るからに高級そうな…しかし、それほど趣味の良くないソファーに腰掛けた半沢が隣に座っている若林に聞いた。
「君は…いつもあんな感じでお客様と接しているのか?たとえ受付と言っても相手は…」
「あー部長が言いたい事はわかります。でもね、僕達は銀行員と違いますからね。東京中央銀行の名刺一枚で偉いさんに会ってもらえるような立場じゃないんです。受付のおねーちゃんに名刺を何枚も何枚も渡して顔を覚えてもらう。んで、無駄話したりお菓子とか持ってきて機嫌とって何とか担当者に繋いでもらう。それが、僕達証券マンのスタイルなんですから。泥臭くやらなきゃ。僕らはエリートなんかじゃありませんし。」
若林が急に表情を引き締めて言った。

「そうか。それはすまない。」
半沢は目を細めて若林に詫びた。ストライプのスーツにピンクのクリレックシャツ。ネクタイも同じピンク系でシャツとの濃淡に気を配ってコーディネートされている。細い今風のフレームの眼鏡が良く似合う。ちょっと軽薄そうなこの男の芯の強さを感じ、半沢は少し嬉しくなってきた。

「お待たせしました」
熊のような風貌の大柄な男が応接のドアを乱暴に開けて入ってきた。半沢は若林とともに立ち上がって深く頭を下げた。
「若林君、こちらかな?武勇伝をたくさんお持ちの新しい部長さんっていうのは?」
気がつけば大男の後ろに背中を丸めた男が立っていた。
半沢がスーツの内ポケットから名刺入れを取り出す。淀みない動作でその中から2枚を抜き取り、1枚をその男に差し出した。
「半沢さん…すまないね。私は名刺というものを持ち合わせていなくてね。」
「いえ、結構です。ご高名、存じ上げておりますので。」

この男は違うぞ…
「人を見る目」
それこそが、銀行員にもとめられるもっとも重要な資質であると信じる半沢のアンテナがはげしく反応した。この男には何かがある。

半沢は柔らかい表情で着席を促す秋元康に笑顔を返した。



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Comment

No title

『雲上の楼閣』以来の会社内部のお話の話のようですね。
ここからどう展開されていくのか楽しみです!

2013.10.10 (Thu) | アイヌラックル #- | URL | Edit

No title

アイヌラックルさん

雲上の楼閣はメンバーが架空の設定でしたが、今回メンバーはakbメンバーとして出てきますよ。
題材が金融業界、ネタ元が半沢って事でちょっと難しい話になるかもしれませんが、お付き合いいただけたら嬉しいです。

2013.10.10 (Thu) | 四谷 #mQop/nM. | URL | Edit

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