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「救急車を呼んだほうがいいんじゃないか?」
「直撃か?」
「いや…雷が落ちたのは4番のほうだって言ってたぞ。この辺りにも衝撃はあったが…」
「そうだよ。第一、一緒にいた俺たちはなんともないしな。」
3人の中年の男が心配そうに倒れた少女を見下ろしている。一人は少女の父親のようだ。

「鈴蘭。おい。大丈夫か?鈴蘭?」
軽く頬を叩かれる感覚に気づき目を開けた。目の前に父親の顔があった。
「ん?ああ、お父さん?大丈夫だけど…あれ?何?」
山内鈴蘭は背中を抱きかかえていた父の腕から身体を起こして辺りを見回した。
鮮やかな緑色のフェアウエイ。目の前に広がるアイランドグリーン。良く見慣れた光景だ。デズモンド・ミュアヘッド設計による難コース、オークビレッジ・ゴルフクラブの14番ホールだ。さっきまで雨が降っていたのだろう。芝には水玉が輝いていた。

このホール、大嫌い。だいたいミュアヘッドって性格が悪いんだよ。っていうか絶対どS。じゃなきゃ、こんな難しいコース設計なんてしないから。お父さんたちも、ここ来たら絶対スコア崩して機嫌が悪くなるんだから、もっと簡単なコースに行けばいいんだよ。私だって今日のアウト55だよ。せっかくここんトコ90台で安定して回れてたのに…

今日?
今日って…なんで私ゴルフ場なんかにいるの?だって、今日は前田さんとか麻里子さんとか…OGのコンサートとSKEショップのNY店オープンセレモニーに行くあかりんさんのお伴だったじゃない?飛行機無茶苦茶揺れてて怖くて…

「お父さん…私、なんでここにいるの?」
「なんでって…おい、鈴蘭…大丈夫か?」
父親が不安そうな顔で山内の顔をのぞきこむ。
「鈴蘭ちゃん、今日はここで上がろうか。多分雷に打たれたって訳ではないと思うけど、一瞬意識失ったくらいだから、ね。」
同じ組のおじさんがそう言った。確か…お父さんの取引先関係かなんかの人だ。スゴク癖のあるフォームだけどハンデ5下の人。関東アマとかにも出てるくらい上手い人だ。名前…なんて言ったっけ?
「ううん、大丈夫。あと5ホールだし。それに…なんか今日はワンオン出来る気がするんです。14番。」

holl-14_obj.jpg

山内はティーグラウンドに立ってグリーン方向を見た。レディスディーからは130ヤード。今日は混んでるから前の方にティーを出して易しくしてるらしい。風はフォローだ。
「お嬢さん、5番ウッドでいいかしらねぇ?」
年配のキャディがそう言ってキャディバッグに入ったクラブを引き抜く。ウッドカバーを外してそれを山内に渡そうとする。
「5ウッド?いや…ちょっと大きすぎません?130だったら5アイアンか、フォローだから6か…」
「え?鈴蘭ちゃん?」
おじさんがビックリした顔をしてる。ん?いや・・幾ら私でも5ウッドだったら160…それ位は飛びますよ?まあ、ウッド苦手だからチョロして池ポチャかもしれないけど…

山内は5番と6番、2本のアイアンを持ちサイドティーグラウンドに上がった。意外と風が強いのを見て5番を捨てた。6番を持ってアドレスに入る。軽く1回2回をワッグルをしながらスタンスを決める。

なに?このクラブ…シャフトはふにゃふにゃ。ヘッドだって異常に軽い。これじゃおもちゃのクラブみたいだ。それに…私が普段使ってるのはXXIOのアイアン。レディスモデルだけどシャフトはしっかりしたもののはずだ…

アドレスを解いた。息を止めるようにしていたお父さんやおじさんがほっと溜息をつくのが聞こえた。
「あ、失礼しました。ちょっとアドレスで違和感が…」
「なんだなんだ?鈴蘭ちゃん、どうしたんだ?急に大人っぽい口調になって。それに、今のプレショット・ルーティン、古閑美保にそっくりじゃないか?雷で突然覚醒したとか?」

急に背中に冷たい汗が流れる気がした。おじさんの言葉には答えずクラブを5番ウッドに持ち替え、再度スタンスを取る。バックスイング…ダウンスイング…インパクト。頼り無い音を立てて弱々しい打球がグリーンに向かって伸びて行く。
「越えて~」
キャディさんの声がかかる。ボールは池を超えたものの右手前のバンカーに飛び込んだ。
「ナイスナイス。今日は池越えたじゃないか。」
父親に肩を叩かれて山内はにっこり笑った、ティーを拾って歩き出す。

ん?お父さん、背伸びた?
まさか…ね。そんな年じゃないよね?
え?それじゃなに?私の背が縮んだとか?

グリーンに向かう途中に茶店の前を通る。14番と15番の間にある。そこの窓ガラスに映った自分の姿に山内は思わず足を止めた。そこには遠い記憶の中の自分がいた。お父さんと毎週のようにラウンドに出かけてた頃の自分。
ゴルフが面白くて面白くて仕方なかった頃だ。

そう…まだランドセルを背負っていたあの頃の。

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