スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

inning79.




「ほらな?言うたやろ、この回で決まるって。」
そう言って山本彩は肩に大きなバッグを抱えてベンチに向かった。

甲子園での試合と試合の間は実に慌ただしい。前の試合が終わると、次の出場校はすぐさま用意をしてベンチに入らなくてはならない。延長戦にもつれ込んだ試合のあとはその用意をいつすればいいかがなかなか読めない。ましてや、サヨナラホームラン一発で決まったのだ。次の試合の難波桐蔭と千城が慌てるのは無理もない…はずだった。

「ほんま・・・アンタのカンの良さには関心するわ。」
「菜々、カンちゃうで。読みや。キャッチャーは読みが大事なんや。」
「ほら、向こうさん、慌てまくっとるで。無理もないわな、初出場で何していいかわからん上に前の試合が延長戦や。そりゃ、あたふたするわな。」
「みるきー、油断禁物や言うたろ?千城は手ごわいはずやで?」
「は~い。キャプテン。わかってるって。」

スムーズにダッグアウト入りした難波桐蔭に対し、千城高校のメンバーは明らかに落ち着きを欠いていた。それなりの準備はしていたつもりだが、元チームメイト達の白熱した試合展開にモニターで見入っていたため、余りにも劇的で突然の試合終了に対応しきれてなかったのである。


7分間のシートノックだけでは、そのドタバタ感は解消できる訳もなかった。グラウンド整備の間もアンダーシャツを着替えたりなんやらであっという間に時間が過ぎて行く。気がつけば試合開始のサイレンが鳴り響いていた。


「あっ…しまった…」
トップバッターの石田は1-2からの4球目の外の球に対し中途半端なハーフスイングをしてしまった。難波桐蔭のキャッチャー・山本がさっと1塁方向を指差す。塁審の右手が上がった。
「バッターアウト!」
三振だ。


「すっごいキレのスライダーだよ…バット止まらなかった。」
ベンチに戻りながら石田が次打者の仲川に告げる。仲川も同じように、追い込まれてから外の釣り球に手を出し三振に終わった。3番仁藤は2球目のやはりインコースのスライダーに詰まってサードへのファイルフライを打ち上げた。

「ハリーアップ!元気で行きましょう!」
主審が攻守交代を促す。地方予選と甲子園での大きな違いがこの「時間」である。とにかく試合進行が早い。投手戦ともなると2時間かからずに試合が終わる事も珍しくない。初出場校の多くが甲子園の感想を聞かれると「気がついたら試合が終わっていた。」というものが圧倒的に多い。
千城ナインは完全にその「甲子園のペース」に飲み込まれようとしていた。

inning80. | Home | innng78.

Comment

Post comment

Secret

Page top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。