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nning58.




「秋葉から結構いっぱい転校してきてさ。ここでまた野球出来るかなって思ってたんだ。でも、なかなか皆その気になってくれなかった。そりゃそうかもね。みんな追われるように秋葉からここに来たんだもんね。そしたらさ、小森とかしほりんとかうっちーとかが転校してきてさ。萌乃がグラウンドに出てきてくれた時は嬉しかったなぁ。それから、みゃおとかはるきゃんとか…私にとって甲子園とか、正直どうでも良かったんだ。またもう一度野球が出来るだけで。」
「萌乃は…知ってたんだ?」
宮崎の問いに仁藤が頷いた。大きな目から涙がはらっと零れおちた。
「だから、秋の大会に出れないって分かった時あんなに取り乱したんだ…」
「うん、秋の大会ならあやりんもまだ出れるから。」

「菊地さん…肩とか肘とか…ボロボロっしょ?試合に出れないからってムチャし過ぎですよ。菊地さんには将来があるんですから。」
声をかけたのは光宗だ。
「さすがだなぁ。見破られてた?でも、いい球行ってると思ってるんだけどなあ。」
「その状態であのスゴイ球を投げてる事自体がマズイんです。お願いですから、もう休んでください。」
「そうだよ。そりゃ、あやりんのおかげで私達は活きた球で練習出来た。150キロの球はマシンでも打ちこめるけど活きた150キロの球なんてそう打つ練習なんて出来やしない。」
4番の鈴木も声を詰まらせながら菊地に言う。一番菊地の球を打ちこもうとバットを振ってきたのは彼女かもしれない。

「もーやだなぁ。なんかこんな風に湿っぽいの嫌いなんだなぁ~。ね、ミーティング終わりだよね?私、先に着替えちゃうよ。帰り、ガスト寄ってくでしょ?私、先に行ってる。」
菊地が笑顔で教室を後にした。誰もそれを止める事をしなかった。

暫くの間、教室には沈黙が流れた。
全員が何かを考えていた。どんな気持ちで菊地は今までボールを投げ続けてくれていたのだろう?甲子園、甲子園って騒ぐ私達をどんな思いで見ていたのだろう?自分では決して叶わない夢なのに、どうしてあんな風に笑っていられるのだろう?

「私さあ…誰かの為に野球やるのって大嫌いなんだよね。」
沈黙を破って最初に言葉を発したのは石田だった。
「秋葉にいた時からそうだった。母校の名誉のため…ベンチに入れなかった仲間のため…チームのため…そんな事、綺麗事ってずっと思ってた。自分が楽しくなきゃやる意味ないって。」
「はるきゃん…それは間違ってないと思うよ…」
仁藤が何かを言おうとしたのを石田はそっと首を振って遮った。
「でもさ、私はこの夏、あやりんの為に野球するよ。あやりんのために打つ。ツーストライクまで手を出すなって言うならそうする。リスクを冒して走るなって言われたらガマンもする。甲子園に連れてくなんて事がどんだけあやりんの慰めになるのかわかんないけどさ。言ってけど、無理やりじゃないからね。私がそうしたいって思ってるんだから。」
石田は教室の天井を見上げながら言った。多分、そうしないと涙があふれ出してしまうからだろう。


宮崎も鈴木も仲川も…誰もが同じ思いだった。
甲子園に行こう。そこに何があるのかは分からない。でも、少なくとも菊地はその為に毎日ボールを私達に向かって投げ続けてくれたのだから。

「あやりんの涙を無駄にしないようにしよう!! ね、そうだよね?」
小森が立ちあがって素っ頓狂な声を上げる。

誰も笑わなかった。
みんな知ってる。今頃菊地も泣いてるんだって。
一番悔しいのは菊地自身なんだって。

inning59. | Home | inning57.

Comment

故障ではなかったんですね
でもやはり過去の出来事が…

例えマウンドに上がれなくてもチームの中心、エースとなる人物がいるだけでチームはまとまるものではないでしょうか?

2012.03.05 (Mon) | レン #- | URL | Edit

萌乃が隠してたのはあやりんのことだったんですね・・・

2012.03.05 (Mon) | アイヌラックル #- | URL | Edit

いつも楽しく読ませてもらっています。あやりんはそんな事情があったとは。よく考えましたね。みんなもあやりんのために甲子園に連れてってくれると思います。甲子園に行けるのかなぁ。やばい楽しみになってきた。スタメンは全員三年生で攻めてきましたかぁ。一年生が一人ぐらい混ざっていても面白かったかも。あやりんの話を聞いていて今の自分の事を話したいなぁと思っているのですが、四谷さん以外の人には知られなくないので誰が見てるか分からないので。この後に、非公開コメントとして書かせてもらいます。それでは。

2012.03.05 (Mon) | なたや #LkZag.iM | URL | Edit

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2012.03.05 (Mon) | # | | Edit

残酷ですよね

興行面ではプロの下位球団より遥かに儲け、野球留学やなりふり構わぬ強化策に見て見ぬふり、なのに純粋にここに立ちたい好敵手を迎え皆と戦いたいと言う思いに応える事には鈍感な巨大組織…。現実の高校野球と重ね合わせて胸が苦しくなる様な気がしています、でももう千城の夏は動き始めたんですから彼女達の活躍をただ只管に祈ろうと思います。

2012.03.05 (Mon) | HARUKA #- | URL | Edit

>>レンさん

実は、私が高校の時に一人同じような境遇のチームメイトがいました。
ちょっとやんちゃが過ぎてしまって…でも、彼の存在はとても大きかったですね。




>>アイヌラックルさん

そうですね。
やっと、種明かしが出来ました(^^ゞ


>>なたやさん

鍵コメ読ませて頂きましたよ。
お返事したいのですが、ここに書くと話の内容が分かってしまうので、良かったらまた鍵コメでアドレスとか教えてもらえれば、そちらにお返事返そうと思います。
良かったらでいいので。


>>HARUKAさん

高校野球って、ある意味色んな大人の思惑が絡んでる事は間違いありません。
子供も無邪気なようでしっかりその事を分かったりしています。
でも、毎年夏の地方予選を見に行って、その姿を見てると、その直向きな姿に感動しますし、彼らの必死な思いは伝わってきます。
きっと、我々大人が無くしてしまったものを持ってるから、その姿が眩しく見えるんでしょうね。

2012.03.06 (Tue) | 四谷 #mQop/nM. | URL | Edit

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