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inning56.






北部九州地区の梅雨入りが発表されて1週間。夏の県大会まで1ヶ月を切った。
しとしと降り続く雨の中、室内での練習を終えた3年生10名、1年生13名の部員が井上の指示で教室の一室に集まった。何のためかは伝えられていなかったが、これから何があるのかを集まった全員が理解していた。

「よし、集まってるな?」
井上と校長の後藤が大きな段ボールを抱えて入ってきた。
「あれ?校長先生までどうしたんですか?何か差し入れとか?」
石田の茶化したような声に小さな笑い声が上がったが、いつものような大騒ぎにはならない。石田もすぐ真顔に戻った。

「えっとな。今日正式に夏の大分大会への出場登録をした。いよいよ、これでお前たちが夏の舞台に登場する手はずが整ったって訳だ。で…ベンチには監督と責任教師の二人が入らんといかんからな。校長がその役を引き受けてくださった。今日から練習にも顔を出してくださるそうだ。」
「お~。校長先生、ありがとう~ございます。」
「でも校長先生、野球わかるんですか?」
部員からの冷やかし気味の声に後藤が柔らかい表情で答える。
「ご心配なく。これでも昔は高校野球の指導者でしたので。みなさんはご存じない学校かもしれませんが…」
「おい、お前ら、失礼な事を言うな。校長はあの藤女子学園で全国制覇を成し遂げた事もあるんだぞ?プロで活躍した、新田とか国生とか河合とか…みんな校長の教え子だ。」
井上の言葉に部員の視線が尊敬の眼差しに変わった。分かりやすい反応だ。

「まあ、いい。今日は大事な話がある。夏の大会ベンチに入るメンバーを発表する。」
井上の言葉に部員の表情が変わった。そう…ついに来る時が来たのだ。新1年生の加入でレギュラー争いは混とんとしていた。誰が一ケタの背番号をつけるのか…誰もが期待と不安を抱いていたのだ。

「知っての通り、ベンチに入れるのは20人。この中で3人はベンチ入りメンバーから外れる事になる。だが、夏の大会は全員で戦うぞ。試合に出てるメンバーだけじゃない。ベンチに入れなかった者も一緒に戦ってほしい。分かるよな?ここまで一緒にがんばってきた仲間だからな。」
「先生、わかってます。誰が外れたからってチームから気持ちを離すコなんて、ここには誰もいませんよ。」
鈴木の言葉に全員が頷いた。

「そうだな。よし…じゃあ、今からユニフォームと背番号を渡す。ベンチに入れなかった者にも試合用のユニフォームはあるからな。受け取ってくれ。じゃ…ここからはキャプテン、頼むぞ。」

仁藤が教壇に歩み寄って目を閉じた。
なんだ?幾らメンバー発表だからって、ちょっと大げさすぎないか?なんか重たい事を告知するかのようじゃないか…?部員たちが顔を見合わせた。

「じゃあ、1番から順に発表してくね。ユニフォーム取りに来て。」
仁藤の声が涙声になっていた。部員から小さなざわめきが起きる。
「背番号1…宮崎。」

え?…ざわ…ざわ…

小さな驚きの声とざわめきが起きた。宮崎が目を丸くしてそのあと菊地の顔を見た。菊地はにっこり笑って顔の前で小さく手を合わせて拍手を宮崎に送った。声に出さず「おめでと」と口の動きだけで言う。

「ちょ…ちょっと待って。確かに1番は嬉しいし、光栄だけど…1番ってエースナンバーだよ?明らかにあやりんがつけるのがスジじゃないのかなぁ?実力的にも実績的にも。それに、元々のウチの部員はあやりんだけだったんだし。」
宮崎が立ちあがって言う。声には出さないが、他の部員も同じ気持ちでいた。
「誰が何番をつけるのか…それについては、最後に話すから…だからまずはユニフォーム取りにきて。…お願い。」
静かだが涙交じりの仁藤の言葉に、宮崎はそれ以上何も言わずに仁藤からユニーフォームを受け取った。1番の背番号も一緒に受け取る。

「2番は私、仁藤。3番、鈴木。4番、小森。5番、仲川。6番、石田。7番内田。8番、野中。9番、仲俣。」
レギュラーの番号は3年生で占められた。1年生の力も大きいがやはり夏の本番は3年生中心で…井上の考え方でもあった。
仁藤が発表を続ける。
「10番、大島。11番、光宗・・・・」
20名の部員が名前を呼ばれた。しかし、最後まで菊地の名前が呼ばれる事はなかった。

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