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inning44.



「よっし。そろそろ座ってもいいかな?」
ブルペンでキャッチボールをしていた柏木由紀が島崎遥香に声をかける。こうやってまともに柏木に受けてもらうのは入学以来初めての事だ。夏の大会では1年生ながらベンチ入りしていた島崎だったが実戦での出番は殆どなく相手はもっぱら同じ1年生の島田晴香だった。
「は…はい。宜しくお願いします。」
島崎が緊張した面持ちで頷く。
「ぱるる!!何ビビってんの?アンタは秋葉のエースなんだよ?秋の大会、背番号1もらう事になったんだから。同じチームのキャッチャー相手に投げるのに緊張する必要なんてなんもないんだからさ!!」
柏木の横で見守るように立っている島田が島崎を励ますように大きな声を出した。
「島田…うる…」
「すんません!!!さあ、ぱるる!!」
柏木はくすっと小さく笑い声を立ててミットを構えた。島崎が小さく振りかぶってそのみっとを睨む。腕を振ってボールを投げこんだ。

ばすっ…

鈍いミットの音が鳴ってボールが前にこぼれた。
「ごめんごめん。あれ?どしたんだろ?」
柏木がこぼれたボールを拾って島崎に投げ返した。
「よし。もういっちょ。」
「はい。」
島崎は柏木のミットめがけてボールを投げ続けた。

何球投げても柏木のミットから心地よい捕球音がする事はなかった。しきりに首をかしげる柏木。見守る島田も投げている島崎も徐々に不安な表情になってきた。

「ぱるる…ちょっといいかな?島田も…」
柏木がマウンドに歩み寄ってきた。島田も心配そうについて行く。
「ねえ。ぱるる、投げてるのストレートだよね?」
「はい…そうですけど…」
「どんな風にボール握ってるか見せてくれる?」
「あ…はい。こんな風に…」
島崎がボールを握って見せる。柏木が驚いたような、それでいて納得したような表情になった。
「ずっとその握りで?いつから?」
「え…いつからって…う~ん…意識した事なかったです。」
「手のひら広げてみて?」
島崎が右の掌を広げて柏木のそれに重ね合わせた。指の関節一つ分近く島崎のほうが小さかった。
「ぱるる。あなたの球を何でウチのレギュラーが打てなかったかわかったわ。あなたがストレートのつもりで投げてる球…魔球だよ。」
「魔球って?」
島崎と島田が顔を見合せて驚く。
「普通ストレートってのは、指をきちんと縫い目にかけてボールに回転をかけて投げるものでしょ?最近じゃツーシームとかが流行ってるけど、基本はこう…二本の指を縫い目にかけて…」
柏木がストレートの握りをしてみせる。
「あなたのその小さな手だと確かにボールは握りにくい。だから、そんな風にソフトボールを握るみたいに鷲掴みにして握ってたわけだ。だから、投げたボールがゆらゆら揺れて落ちたり曲がったり…ナックルとかパームボールのような変化になってるんだね。」
「ナックル…ですか?」
島崎が自分のボールの握りを不思議そうな顔で見つめる。
「あなたのスゴイ所は、普通ナックルやパームって極端にスピードが落ちるんだけど…実際、それでも打ちづらいんだけどね。130キロ前後のスピードが出る。だから、一見変化が小さく見えちゃうんでバッターが魔球の正体に気付かないってトコなんだろうね。」

柏木が島田の顔を見た。
「ぱるるがスゴイのはもちろんだけど…もっとスゴイのはあなたね。なんで、この球を平気な顔で捕れるのかな?」
「あ…あの。私たち小学校からバッテリー組んでて…それで…」
「島田。今日からしっかりバッティング練習しなさい。きちんとレギュラーと同じだけ打ちこむ事。個人練習もバッティング重視で。いつもブルペンにいるって訳にはいかないわよ。」
「え…でもブルペンにいないと…」
「あのね。幾らキャッチャーっていっても、レギュラーで出るからには打線に切れ目作っちゃいけないの。少なくともぱるるには打つ方は期待できないから、2人も打線に穴作れないでしょ?3割打てとは言わないけど。」
「あの…キャプテン、言ってる意味がわからないんですが…」
「秋の大会、あなたが背番号2をつけるって事。エースの球を受けれるのがあなたしかいないんだから、当然でしょ?」
「はるぅ!!!やったぁ!!!やったね。」
無邪気に飛び跳ねて笑う島崎の横で島田は、まだ何を言われてるのか分からない表情で立ちすくんでいた。


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