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inning16.



照明が落とされ、グラウンドには誰もいなくなった。峯岸は誰も残っていない事を確認するかのように周りを見回して部室に戻ってきた。手には氷嚢とテーピングを持っている。

痛たたたた…ヤバいな…段々酷くなってくる。3日前のシート打撃の時だよな。1塁から3塁へ一気に行って滑り込んだ時か…そん時はぎくっってしただけだったんだけど…うわ、こんなに腫れてきてる。でも…大丈夫だ。今日だってテーピングでガチガチに固めてたらちゃんと動けたし。痛いのなんのって言ってる時じゃない。

やばやばやばやば…やびゃぁよぉ。見ちゃいけないもの見ちゃったよぉ
…どーしよ。峯岸さん、怪我してたんだ。やっぱ。
でも、どーすればいいんだあ?
待てよ…峯岸さんが怪我で出れなくなるって事は…私がレギュラー?
それもやびゃぁじゃない?ひゃぁ、なんか高まる事態って事ですかぁ?

…などと言ってる場合ではない。
私にはまだ来年だってあるんだ。峯岸さんは今年が最後。やっとレギュラー取って張り切ってるんだから…私は今日何も見なかった。そう…それでいいんだ。だって、今日だってちゃんと動けてた。三遊間の打球にだってちゃん対応できてた。私なんかより全然動きはキレキレだったんだもん。

「そんなトコでコソコソしないで入っておいでよ。」
突然部室の外に向かって峯岸が声をかけた。渡辺は一瞬びくっと身体を震わせたが、おずおずと身をすくめ中に入った。
「すいません…覗き見するつもりはなかったんです。」
「ああ、わかってる。ワタシもうかつだった。部室じゃなくて寮の部屋に戻ってやればよかったんだけどね。」
「あ…私、誰にも言いませんから。絶対。監督とかコーチとか…私、先輩の代わりにレギュラー取ろうなんて思ってませんから…」
「ホントか?」
「はい…」
「頼む、麻友。この通り。こんな怪我で…こんな事で最後の夏を無駄にしたくないの。お願い。みんなには黙ってて…」

「みいちゃん、それはダメだよ。」
部室の入り口から声がかかった。二人は驚いて声の方を向いた。
「たかみな…いたの?」
「うん。ちょっと忘れ物を取りにね。みいちゃん、悪いけど聞いちゃった。ちょっと足見せてみ?」
高橋が峯岸の腫れあがった足首を持った。軽く捻ってみる。
「っ…」
峯岸が顔をしかめる。

「キャプテン、峯岸さんなら大丈夫です。今日だって見てましたよね?確かに腫れてるし、痛いとおもうけど…ちゃんと動けてたし。それに…」
渡辺の言葉には答えず、高橋は無言で首を横に振った。
「みいちゃん。大丈夫かどうか判断するのは監督だから…私は見たままを報告するしかないから。」
「待ってよ、たかみな。そんな事監督が知ったら、ワタシは間違いなくメンバーから外される。今までずっとそうだったじゃない?怪我人使わなくなって、ウチには幾らでも代わりの部員はいるんだ。そして、予選でメンバーに選ばれなかった子が怪我が治ったからって甲子園でベンチに入る事ってないでしょ?ねえ、やっとじゃん。中学の時からずっと言ってたよね?一緒に甲子園行こうって。4番と6番の背番号つけて、甲子園の二遊間を守ろうって。やっと夢がかなう直前なの。大丈夫だから。絶対に迷惑はかけないから。」
「キャプテン、私からもお願いします。」

「みいちゃん…麻友…」
高橋は部室の壁にかかったユニフォームに目線をやった。
「二人とも、このユニフォームに袖を通す覚悟って意味はわかるよね?秋葉学院のメンバーだたら甘ったるい事言うんじゃないの。」
高橋は厳しい顔で言った。峯岸がその場に泣き崩れる。
「二人とも早く寮に戻って。私は先に行くから。」

そういって高橋は部室を出て行った。
「キャプテン…冷たいっす…。あんな風に言わなくても。ショックなのは峯岸さんなのに…」
渡辺が峯岸の背中に手を添え言う。
「ううん…わかってんだ。きっと…今頃、たかみな絶対泣いてるんだ。アイツはそういうヤツだから…」

峯岸の言う通り、高橋はあふれ出てくる涙を何度も何度も拭っていた。一人グラウンドの中に入りセカンドのポジションで膝を抱えて座ったまま。
右の方を見ればいつもみぃちゃんがいた。ノッカーの監督が怒鳴ってるとグラブで顔を隠してぺろっと舌を出して笑うんだ。
ちくしょう…なんでここまで来て…なんで私はキャプテンなんだ。こうして仲間が傷つく事を言わなくちゃいけないんだ…。いや…一番辛いのは私じゃない。私が強くならなきゃダメなんだ。絶対負けない。負けられないんだ。他のどこより、私たちはそれを実感しなくちゃいけない。叶えられなかった思いを背中に背負わなくちゃいけない。だから私たちはドコよりも強くなれるんだ…

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