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inning11.



「しっかし…また一段と設備投資したんじゃないの?えらい立派な建物に案内されたなって思ったら野球部の合宿所とはね…しかも、監督室なんて…ウチの校長室より遥かに立派だよ。」
「いや、その分プレシャーがキツいんですよ。特に予選直前になってくると何かと外野もうるさくって。
戸賀崎は真新しいソファに身を沈め、出されたアイスコーヒーにガムシロップとミルクを二つづつ入れて一気に飲み干した。
「相変わらずだな。そんな飲み方してちゃ痩せる気はないって事か。」
井上が冷やかすように笑った。
「そんな事言わないでくださいよ。これでも色々と気遣いしてて身が細る思いなんですから。先輩ならわかるでしょ?」
「そうだな。もうベンチ入りは発表してるんだろ?」
「ええ。まあ、それ以来煩いのなんのって。なんで誰々が入ってないんだ。なんでこの子が何番付けてるんだって…」
「名門校は後援会とか父兄とかうるせーもんな。金も出すけど口も出すってな。」
「まあ、選手からそういう声が上がってないのは救いですけどね。」
「おい、本当にそんな風に思ってるのか?」
井上はちょっと真顔になって戸賀崎を睨んだ。戸賀崎が肩を竦める仕草をする。
「話っていうのはその事ですよね?宮崎と石田…」
「二人だけじゃないぞ。2年生で9人いる。3年生も7人。もっとも、この7人で今残ってるのは誰もいないけどな。」
「え?浦野は?大堀や野呂…佐藤なんかは?」
「みんな退学してたよ。それぞれ地元に帰っていったそうだ。」
「そうでしたか…知らなかった。」
「落ちこぼれは田舎に追いやって、後は知らねって事か?ちょっとひどくないか?今いる2年生だっていずれはそうなるかもな。あいつ等のなんか世を捨てたような目は見てられん。とても高校生の若さに満ち溢れた顔つきじゃないからな。」

井上が持参したファイルを机の上に広げた。
「だから、俺はあいつ等を何とかしたいと思ってる。いや…野球を無理にやらせようって事じゃないんだ。なぜ、あいつ等がここを追われ…いや、自ら去ったのかもしれない…妙に訳知り顔になったのかを知りたいんだ。」

「ヨシマサ、その話は私からしようか。」
監督室のドアが開いた。黒ぶちの眼鏡の男がのっそりと姿を現した。
「秋元先生。お久しぶりです。」
井上がソファから立ち上がった。秋元の差し出した右手を両手で握り返した。
まだ、千城高校への就職の礼をちゃんと言ってなかった事を思い出した。
「安心したよ。ヨシマサがまだ熱いままでいてくれて。さすがだな。」
「いえ…先生からそんな風に言われると背中が痒いですよ。」
「本心だよ。さて…本題に入ろうか…実はこっちから会いに行こうと思ってたんだ。宮崎と石田が行く事になったのを機にね。ただ、申し訳ない、さすがに今の時期は忙しくてね…」

秋元がファイルを捲りながら話し始めた。
「長い話になるが…構わないかな?」

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