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inning7.




「はーちゃん、ほれ。」
全体練習を終えると、小林香菜が真っ白な鉢巻と襷を片山に手渡した。
「これ…」
「ん。今年の応援部長ははーちゃんに頼むわ。」
佐藤夏希が紺シャツの袖を肩口までまくりあげながら笑う。
「エールの切り方なんて一番カッコ良さそうだもんね。」
松原夏海が大太鼓のバチをくるくる振り回しながら佐藤の言葉に頷く。
「そうそう、あの牽制されて帰塁する時の高速ターンの切れの良さを活かしてね。
梅田彩佳や増田有華、佐藤亜美菜、松井咲子らも笑いながら片山を囲む。
みんな紺のシャツ姿の3年生だ。

秋葉学院には応援団が無い。全国金賞常連のブラスバンドと全校生徒の参加による応援風景は甲子園でもお馴染みの光景だが、それを指揮するのがベンチに入れなかった3年生部員によって結成された即席の応援部だ。毎年100名近くの新入部員を迎える秋葉学院の野球部も3年生になる頃には多い年でもその数が1/3に減っている。残った部員は最後までスタンドで選手と一緒になって戦うのだ。


両翼100メートル、センター125メートル、立派な観覧席も備えられた専用球場をカクテル光線が照らし始めた。ユニフォーム姿の部員は個人練習を続けている。Tシャツ姿の部員はそれを鼓舞するかのように大声で応援の練習を始めた。

まずはエールの交換の練習からだ。試合前と試合後、お互いの健闘を称えあういわば応援の儀式のようなものだ。団長の見せ場と言ってもいい。
「あきばぁ~がくぅいん~こおぉこぅのぉ~しょおぉおぅりぃいをいのぉってえ~…」
身体をのけぞらして声を上げる片山の声がかすれている。
「しょぉ~…り…を…」

それ以上は声にならなかった。悔しい…今までなんの為に…片山の脳裏にこれまでの苦しい練習の日々が走馬灯のように浮かび上がってきた。逃げ出したくなる夏合宿の灼熱のグラウンド、真冬の凍えるような寒さの中頭から湯気が出る程走り込んだ日々…一人、そしてまた一人とグラウンドを去って行った仲間の顔…

下級生達が顔を見合わせる。片山の背中が小刻みに震えていた。
小林と増田が横に立って背中をそっと支えた。何か言葉を発したわけではない。ただ黙ったまま片山の肩を抱き続けた。

ひたすらティーバッティングのバットを振りながら高橋みなみは心の中で叫び続けていた。ちゃんと聞こえてるよ、はーちゃん。大丈夫。声にならなくたって届いてる。
私たちは自分たちだけで戦うわけじゃない。その声が、思いが、祈りが全部私たちの力になるんだ。背番号が無くなって、グラウンドの上だろうがスタンドだろうが、みんな夏の主役なんだから。





inning8. | Home | inning6.

Comment

いつも楽しく読ませてもらっています。海外はどうですか?大変だと思いますが、がんばって下さいね。新作をもう始められて驚きました。少し時間が経ってから始められると思っていたので。やっぱり野球はいいですね。面白いです。はるぅをまた出してきてやっぱり四谷さん=はるぅのイメージになってきています。今回は短めです。楽しみにしています。

2012.02.15 (Wed) | なたや #LkZag.iM | URL | Edit

おもしろいメンバーの分け方ですね(*^^)v
期待大です!
ネタバレなどあって難しいかもしれませんが、出来たら各校に誰がいるのかをまとめた物とかがあると嬉しいです。

2012.02.16 (Thu) | rina #- | URL | Edit

>>なたやさん

海外っていっても、まあ英語圏ですので…
何とかかんとかこなしてます。それより夜が暇で。
おかげで執筆が進みます(笑)


>>rinaさん

取り合えす今日のお話の中でホサレ高に誰が来てるのかを明らかにしました。
なんでこのメンツ?っていうのは…これからという事でw

2012.02.16 (Thu) | 四谷 #mQop/nM. | URL | Edit

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