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66.



「アナタは太陽になりなさい…か。」
「ん?太陽がどうしたって?]
大島優子の独り言に前田敦子が反応した。
「あ、いや…私言葉に出しちゃってた?」
「うん。どした?」
「なんでもない…それより、なかやん体調いいみたいだね。」
「おとといも休んだし、昨日も楽な展開だったしね。」
「あっちゃんは?無理しちゃだめだよ?」
「大丈夫。そうだな…渋峠までは何とか。後は…お願いね。」
「わかった…安心して。これからは私がなかやんを牽いていくから。」

前田は顔をくしゃっとして笑顔を作った。するするっと前に上がって行き先頭を牽いていた栄の松井玲奈の横に並ぶ。それに連れられてK'sのトレーンも前に出た。オレンジとグリーンのジャージがレースをコントロールし始めた。

疲れが抜けきってしまったせいなのか、それとも頭の中のモヤモヤが拭いきれないせいかのか、大島は昨夜なかなか寝付く事が出来なかった。翌日は最後の山場だ。少しでも身体を休めておきたい…そう焦れば焦るほど睡魔は遠くへ遠ざかって行く。
暗くなったロビーに降り、自販機で買ったオレンジジュースを手にソファに身を沈めると、そこに前田の姿を見つけた。

「あっちゃんも眠れないの?」
大島がふと目をやると、前田の両足には大きな氷嚢が乗せられていた。
「アイシング?」
前田がそっと頷いた。暫く時間を置いてゆっくりと話始める。
「これ見てくれる?」
氷嚢をどかした前田の両足を見て大島は言葉を失った。発達したふくらはぎの筋肉に比べ余りにも細い太もも。オールラウンダーの脚は総じて細いが、その内側にはしなやかな筋肉が隠されている。しかし、前田の脚はそれすら削ぎ落としてしまったかのような細さだ。

「弱いんだ。ココがね。私。だから長丁場のツールになると熱持っちゃって…回復出来ないの。どんなにトレーニングしてもどんなに鍛えても…ダメだった。」
「それなのに…グランツールであんないい成績を?」
「いい成績なんかじゃないよ。アナタも分かるでしょ?ワンデーレースならともかく、3週間のステージの中でたった1戦5位に入ったって何も評価されない。エースとしてもアシストとしても…ヨーロッパでは私程度の選手は幾らでもいるんだ。」
「それで…なかやんを?でも…なんで今まであれだけの力を持ってる選手が無名だったの?」

「なかやんと私は幼馴染なの。」

仲谷と前田は小さいころから姉妹のように仲が良かった。仲谷は小さい頃に父親を亡くし母親一人の手で育てられた。当然生活は苦しく、裕福な家庭の育ちだった前田の使わなくなったおもちゃを譲り受ける事も多かった。自転車もその一つだった。毎年のように新しい自転車を買い替える前田のお下がりを使っていた仲谷は、年を重ねる毎にその小さな心の中にささやかな遠慮という事を覚えていった。中学生の時、前田がスポーツバイクにのめり込んで行くと、その後を追うように仲谷もロードバイクに乗るようになった。最初はアルミ、そしてフルカーボン、ディープリムのホイール…前田の装備が新しいものになるに従い、仲谷に回ってくるバイクは徐々にグレードの高いものになっていった。

「レースに出るようになると、なかやんはいつも私の前を走るようになったの。大丈夫、エースはあっちゃんだからって。私はあっちゃんのアシストなんだから…って。」
大島がオレンジジュースを一気に飲み干した。長い話になりそうだ。でも…構わない、どうせ部屋に戻っても眠れやしないんだ。

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