スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

63.

「やったね。優勝だよ!ツール・ド・ジャパンで。夢がかなったじゃん!」
花束を抱えて表彰台から降りてきた大場を島田が満面の笑顔で迎える。大場の大きな瞳にみるみる涙が溢れて来た。そのまま島田の胸に顔を埋め大きな声を上げて泣き始めた。

大場にとっても辛い1年だった。元々その潜在能力は高く評価されており、幾つかのプロチームが触手を伸ばしていた時期もあった。しかし、どのチームも結局は採用を見送る事になった。高校時代にやんちゃをしていた頃の事が問題視されてしまってのことだった。挫折感を抱いたままアマチュアのチームでなんとなく走ってた大場の前に現れたのが島田だった。不貞腐れ気味の生活を送る中、島田は毎日のように大場にメールを送ってきた。「明日はロングライドだから6時集合だよ。」「サドル新しくしてみようかって思うんだ。大場の使ってるヤツ試させてくれない?」「たまにはご飯食べにいこうよ。」…
島田、うるせぇよ。そんな風に軽口を叩けるようになってきた頃、ようやく大場の顔にも笑顔が戻ってきた。プロじゃなくなって走る場所はある。そして、コイツと一緒に走りたい…そう思った。こうして、晴れ舞台に立てたのは、間違いない。島田のおかげだ。

「おめでとうございマス。」
ふと大場の肩に手をおき話かけてきたのは、ランスだった。
「見事なアタックでした。ハルカも素晴らしかったけど、あそこでラストスパート出来たミナの爆発力も素晴らしカッタです。見事な二人のチームワークでしたネ。」
大場が、驚いて顔を上げる。目からは涙が溢れてくるのが止まらない。一生懸命拭っても次から次へと溢れてくる。
「嬉し涙は美しいものデスね。感激のシーンをお邪魔してすみません。」

あの、ランス・アームストロングが話しかけてくれている。これは夢じゃないんだろうか?ひょっとして、私が思う以上に今日の優勝って大きな出来事なんじゃないの?やだ…今頃になって脚が震えて来た…

「実は、ハルカには来シーズンからウチで走って頂けるようお願いしてイマス。」
「あ…あの…私…今回はK'sさんの敵になるような…」
島田の言葉を笑顔で遮ってランスは続けた。
「恐らく、イイ返事を頂けると信じています。ハルカ、今年のレースは今年のレースです。アナタはチームオーダーに従って走ってるダケ。逆にそれを無視して勝手な走りをするような選手ナラ、ワタシのチームには必要ありまセン。」
「晴香、そうなの?良かったじゃない。最高じゃん。おめでとう!」
ようやく涙が止まった大場が笑顔で島田の手を取る。
「ミナ。あなたにもウチに来てほしい…そうワタシは思ってイマス。」
ランスの言葉に大場の身体が固まった。
「大場!やったじゃない。プロチームから…しかも…K'sからの誘いだよ?アンタの夢がもう一つ叶うんだ!」
「あ…スゴク光栄なお話です…でも…私は以前…実は…」
「良く知ってマスよ。アナタの過去の話は。デモ、それはあくまでも過去の事デショウ?今日の二人の走りを見ていて、解りました。ハルカはアナタを勝たせようと必死で走っていた。それは、アナタに全幅の信頼を寄せてイタからです。アシストに信頼されるコト。絶対に勝たせたいと思わせるコト。アナタはスプリンターとして必要なモノを得る事が出来たのデス。大丈夫。ワタシはアナタを信じます。もう二度と過ちを犯す事はありまセン。」

きっと…これは夢なんだ…
でも、ベッドで横になって見る夢なんかじゃない。私の前に道が開かれたんだ。これは私の夢への第一歩だ。行こう。もう、私は迷わない。脇道に逸れる事もしない。晴香が開いてくれた道だ。一緒に行けばいい。二人で行けば、きっと何か素敵な事が待ってるに違いない。

「あの…ランスさん…私、自分でもよく分からないんです。なんで、こんなに強くなったのか…あ。すみません、なんか天狗になってるみたいな言い方ですね…でも…」
「ハルカ。ワタシもそうでしたよ。ある日突然殻を破る音が聞こえたんデス。突然ね。ワタシはそれがグラン・ツールだったというだけデス。超一流と呼ばれる選手には、誰でもそういう時がありマス。」
「そんなものなんですか…」
「ハルカ、アナタのペダリングは実に自然デス。全く癖がない。普通、日本人はペダルを踏み込む癖があります。ミナにもまだその癖が残ってマスね。よく言われますが、これはママチャリの影響でしょう。シューズとペダルが固定されてイルロードバイクでは踏むコトよりペダルを回す意識が必要デス。ハルカはごく自然にそれが出来ています。ワタシはそれが不思議デス。」
「あ…それは…」

島田が恥ずかしそうに下を向いて笑った。
「私…高校生まで自転車乗れなかったんです…で…たまたま自転車部の友達に無理やり乗ってみろって、ボロボロのロードバイク渡されて…気が付いたら乗れるようになってました。だから…ママチャリは殆ど乗った事がないんです。」
「そうなの?初めて聞いた。」
大場が目を丸くしている。
「いや…恥ずかしくてさ…」

3人の間に笑い声が起こった。
「さあ、明日はいよいよツイン・ピークスですよ。」
ランスがそう言ってその場を後にした。

ツイン・ピークス。
2つの超級山岳を擁するステージがツール・ド・ジャパン、最後の山場だ。
最終ステージは平坦ステージ。終盤まではパレードランで進行する。
いよいよ、明日、今年のチャンピオンが決定するのだ。

64. | Home | 62.

Comment

いつも楽しく読ませてもらっています。
早速話の内容に移らしてもらいますが、みなるんが勝ちましたね。今日のを見て更に思ったのですが、四谷さんの話はその人の本当のあったというか似てる部分がある点も凄いと思います。はるぅとみなるんは凄く仲が良いなぁと思ってました。みなるんもはるぅとまた同じ所で出来るなんて思ってなかったと思います。話がクライマックスになってきていて楽しみです。楽しみにしていますね。

2012.02.07 (Tue) | なたや #LkZag.iM | URL | Edit

>>なたやさん

登場するメンにはなるべく現実のエピソードやキャラを反映させたいと思っています。
じゃないと、面白くありませんもんよね~

2012.02.08 (Wed) | 四谷 #mQop/nM. | URL | Edit

Post comment

Secret

Page top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。