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55.


高根のダム湖を越えて県道に入ると一団と勾配が強くなる。集団が縦長になり始めた。渡辺は隊列の最後尾まで下がってしまった。栄のトレーンが前に出て行ったのを見送るしかなかった。ここまでか…指原も相当消耗している。協調してるとはいえ、元々は別々のチームだ。チームBにモチベーションを求めるのは難しい話だ。ましてや、自分はこのチームを見限って出て行った身だ。献身的なアシストを求める事自体が無理だったのかもしれない。

熊野神社を過ぎた辺り、九十九折りが始まる山頂まで7キロ弱の地点。渡辺の視界の先で先頭のグリーンのジャージ3人と水玉ジャージの大島がアタックをかけるのが見えた。ああ、とことんあがく気だな…でも、栄もしっかり反応してる。今年のツアーはもう栄のものだよ。一人ひとりの余力も人数もしっかり残してる。幾ら大島優子と前田敦子の二人でもそう簡単に追いつけるものじゃない…渡辺の身体から力がすっと抜けた。

「麻友。ペースダウンだ。ゆっくりゆっくり。脚を貯めとくんだ。いいな。」
インカムから秋元康の声が聞こえてきた。
わかってますよ。もう諦めモードっすよね。ここで離れたら、ウチにもう勝ち目はないんだ。この先の山岳、アシスト無しで勝てる程甘くはないって事、私にもわかりますもん。
「いいな。貯めとくんだぞ。勘違いするな。レースは終わったわけじゃない。野麦峠の下りと次の安房峠の前までの平坦で一気に捲るからな。」

下りと平坦で…?そっか…確か次の安房峠までは40キロ以上ある。そうだ。ウチには山岳アシストはもういないけど…平坦なら…でも、スプリントステージはまだ残ってるはず…それを捨てるって事?まあ、いい。私には関係のない事だ。使わせてもらえるなら使わしてもらいましょ。渡辺が背中のポケットからパワーバーを取り出して口にくわえた。ボトルの水でそれを流し込むように食堂に流し込む。指原も腰を伸ばしながらペースを落とした。


野麦峠の山岳ポイントは大島が取った。しかし、その後方で余裕を持って峠を越えた栄の集団に比べ、前田も大島も峯岸も板野も早くもダメージを抱えているように見えた。仁藤が居ない事もK'sにとっては大きな損失だ。
下りに入ると栄の玲奈は口笛でも吹きたくなるような感覚を覚え始めていた。間違いない。前にはもう余裕がない。恐らく惰性で下ってるだけだ。このまま後ろについているだけでいい…


「柏木さん、今日はへこたれないでくださいよ~」
「お~言うねぇ。っていうか、何も言い返せないなぁ。でも大丈夫、今日は人数いっぱいいるから。」
「ゆきりん、それ威張って言う事やあらへんで?」
島田晴香に増田有華と柏木由紀が笑って言う。宮崎、佐藤、山本が後ろにつく。
「へばったら私たちが後は牽くから。何しろ、ここまで全く仕事してないからね。」
篠田麻里子が島田の横に上がってきて言う、やはり笑顔だ。倉持、片山、小嶋が後ろに続いている。サイクル4の大場、大堀、島崎も前に上がってきた。
「じゃ、ここから40キロ、スプリントステージのつもりで宜しくです。」
「おっけ。途中で二人お客さん拾ってく…と。」
「なんかタクシーみたいじゃない?」
「ほら、無線もつけてるしね。」
「お、しんどい登りも終わりみたいだよ。」
「あれ?何言ってるんですか?片山さん、本当にしんどいのはここからですよ?全開でいきますからね~」
島田がジャージの風を入れる為に下ろしていたファスナーを首まで引き上げる。インナーに落としていたギアをアウターに入れた。がちゃがちゃと何台ものバイクから同じ音が響く。

「GO--------!!!」
島田の雄たけびと共にトレーンが発射した。連合艦隊の先頭をグリーンジャージを着た島田が駆ける。昨日までの黄色ではないが、スプリントポイントトップの称号ポイント賞ジャージだ。

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