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52.


「まさか島田晴香があそこまでとは思いませんでしたよ。まさに逸材だ。平地の強さは知ってましたけど山でもあそこまで走れるなんて。」
「あの子は今まで自分にどんな才能が秘められてるのかを知らなかっただけさ。きちんとした指導者さえつけばまだまだ伸びるよ。」
戸賀崎と秋元康が下呂温泉のホテルのバーでグラスを傾けながら話していた。各地を転々とするツアーレースの場合、こうして違うチームの監督同士が夜酒を飲みながら語り合う事は珍しい事ではない。彼らは敵同士でありながら同じ旅路を共にする仲間でもあるのだ。ましてや、今日の山岳でスキルAとチームBの協調は周知の事実となった。堂々と作戦会議も出来るというものだ。

「でも…卒業後はK'sに入るらしいじゃないですか。いいんですか?GMとしては欲しいんじゃないですか?」
「いや。ランスは偉大な選手であったし、偉大な指導者でもある。それにK'sは素晴らしいチームだ。島田の為にはいい進路先だと思うよ。」
秋元はバーテンに追加のバーボンをオーダーした。今日のレースは悔いが残る結果だったに違いない。心なしか酒のピッチが早いように思えた。

「ところで…明日ですが…」
戸賀崎が切りだした。明日はツール・ド・ジャパン最大の難コースだ。2つの1級山岳、そして最後は乗鞍の超級山岳が待っている。この山頂ゴールで締めくくられるステージは山岳女王を決するだけでなく、総合優勝の行方を大きく左右する事になる。
「ああ。ちょっと厄介だな。栄に1分差をつけられたのはさすがに想定外だった。結果的に大島と前田の逃げは栄にとって都合がいい展開だったって事だな。」
「まさか珠理奈をアシストで使ってくるとは思いませんでした。湯浅さんもなかなかの策士ですよね。それだけ、須田って選手がイイって事なんでしょうけど。」


ツアーレースの総合争いは先にリードを奪った方が圧倒的に有利だ。ライバルの動向をチェックしながら相手に遅れさえしなければいい。ビハインドを背負ったチームはどこかでエースをアタックさせなくてはならなくなる。アタックは決めるより潰す方が何倍も楽なのだ。更に栄のチーム構成はまさにこの展開を読んでいたかのようだった。山岳ではエースの須田とラストスプリント用の珠理奈を温存させ、山岳で仕事を終えたアシストクライマーは珠理奈がいる事で最後脚を休ませる事が出来た。更に今日は終始集団で走りフレッシュな状態の矢神というクライマーを一人残している。不運なトラブルでエースアシストの指原を消耗させた上に、エースの渡辺にも疲労が残るスキルA、山岳用に抜擢された3人が初めての大舞台で力を出し切れていないチームB。同じく協調を張るサイクル4もさすがにこれ以上島田に負担は仕入れないだろう。

「とにかく…総力戦だ。スプリンターも明日は山を登らせる。乗鞍を登り始める前が勝負だ。そこでリードを保てば…渡辺なら何とかしてくれるだろう。幸いといっては何だが、K'sも大島と前田も今日の逃げの失敗のダメージが大きいはずだ。仁藤という強力なアシストを1枚欠いた事も痛い。なら、明日は全チームが対栄包囲網を敷くしかないからな。」

秋元がグラスに残ったバーボンを一気に飲み干した

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