スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

32.


TV、新聞、雑誌…ひっきりなしにインタビューのオファーが入った。何しろ史上初のアマチュア選手によるステージ優勝である。メディアの注目が集まるのも仕方のない事であった。

「みなサン、ちょっとチョット。ここから先はマネージャの野呂サンに聞いたほうがイイです。ハルカ大変疲れてますネ。OK?今日のレースを振り返るならワタシも時間取りますよ?」
報道陣の前にランス現れた。島田に目配せをしながら小さな声で言う。
「ウチのチームのコンテナに行きなサイ。マッサーに待機させていマス。」
「え…?あの…私まだ…」
「構いまセン。ツール中の身体のメンテナンスは大事ネ。ましてや、今日みたいに頑張った日は特に。」

島田は広い駐車場の一角に停まっているK'Sレーシングのトレーラーの中へ入って行った。周囲ではスタッフがバイクを洗ったりメンテナンスを行ったりしている。プロチームはこういうサポート体制がスゴイ。サイクル4では機材のメンテは基本自分で行うし、専属のマッサーなんていない。

「待ってたよ。じゃ、早速そこに横になって。」
すらっとした長身の女性がいた。マッサーの松井咲子だ。
「はい…失礼します。」
島田がベッドの上にうつ伏せになった。松井が肩から腰、脚へと全身をチェックするようにマッサージしていく。松井の力強くて柔らかい指先の使い方に島田の全身がリラックスしていく。逆に興奮してきたのは松井の方だ。

スゴイ。なんなの?この筋肉っていうか身体のしなやかさは。普通、あれだけの逃げをずっとかましてたら、脚の疲労はもちろん、緊張から来る肩や腰の張りと炎症は避けられないはず。なのに、強張ってるどころか筋肉の柔らかさが失われていない。今まで何百人?何千人?の身体をチェックしてきたけど、こんなのは始めてだ。瞬発力を生む強さと、持久力を保つ柔軟性…両方をカバーできる肉体…この子、どうやってこんな身体を手に入れたの?

「終わったよ。」
松井の言葉に島田ははっと我に返った。どうやら眠ってしまったようだ。
「あ…ありがとうございました。ごめんなさい、寝ちゃってました…。あんまりにも気持ちが良かったので…」
「いいよいいよ。アンタ、いい筋肉の質してる。疲労がたまりにくいっていうのはロードレーサーにとって何より大きな武器だよ。大事にケアしてあげてね。今日も、しっかりメンテしておいたから、明日も全開でいって大丈夫だよ!」
松井の言葉に島田は笑顔を見せて深く一礼した。やっぱりプロチームっていいな。走る事に全力を出せる環境がある…


その夜は簡単な祝杯があげられた。ツアーレースの最中、普段は酒が振舞われる事はないがサイクル4はアマチュアのチームである。だからこそ、この快挙をささやかに祝おうと成人以上に小さなグラスで一杯だけのワインが注がれたのだ。
「すいません…明日はしっかり集団で仕事しますんで…」
島田の挨拶に笑いが起きた。地方のバイクショップとしては、もうこれ以上ない宣伝効果である。実際、取材を終えて店長の野呂が食堂に戻ってきたのは夕食5分前の事だった。

33. | Home | コメント欄について

Comment

Post comment

Secret

Page top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。