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20.



スタート会場近くに陣取ったエリアに置かれたローラー台でアップを済ませた島田晴香はいつものレースとは違う感覚に戸惑っていた。どことなく居心地の悪さといった違和感だ。市民レースとはいえ、ヒルクライムに特化したレースに出る事はいままで殆どなかったのだから無理もない。

「乗鞍に出て欲しい。君がどれくらい山で耐えれるかを見たいんだ。もちろん、全開でね。」
秋元康から電話を受けたのは、2週間前の話だった。乗鞍といえば、申込が殺到し抽選でエントリーが決まる人気レースだ。プロ選手でもない島田がそんな直前にエントリー出来るわけはなかった。しかし、今日のスタートリストには島田の名前がちゃんと記載されている。さすが秋元だ…でも、なんで私だけこのレースに参加しろって話が来たんだろう?で、もっと言うなら、そもそもなんで秋元さんからそんなオーダーが来るんだろう…って、それはあんとき聞いたか…ウチは実質スキルAのサポートチームみたいな扱いになっちゃったんだもんな…

「晴香!おったおった。やっと見つけたわぁ。なんやアンタの名前がスタートリストにあったから探しとったんよ。びっくりしたわ。山レースに出るなんてどういう心境の変化や?」
大きな声をかけてきたのは横山由依だった。
「ああ、由依。ちょっと…ね。ここ、ジャパンでもコースに組み込まれてるでしょ。だから…試走も兼ねてってとこで…」
「今日、ウチも主力どこみんな出とるんよお。こんなトコで一人でおらんと、こっち来ない?」
横山の言葉に島田ははっとなった。

そうだった。私、卒業したらK'sに来ないかって誘われるんだった。でも…今度のジャパン、スキルAと協調して走るって事になったって聞いたらその話もなくなっちゃうのかなぁ…

「ね…由依…?」
「ん?なんや?」
「いや…今日はやめとくわ。レース前だし、それに、まだ私部外者だし。」
「なんや、変な子やなぁ。もう身内みたいなもんやんか。もう卒業まで半年やで?遠慮する事なんかあらへんやん?」
「ごめん。またメールするわ。」

島田はそう言って横山から離れた。ジャパンの前に連絡しよう。同学年の横山になら相談を持ちかけても聞いてくれるかもしれない…


乗鞍ヒルクライムは標高差1260m、距離20.5km。最大斜度は20度を超えるハードなコースだ。プロレーサーにとっては山そのもののハードさは無いが、その分高速レースになるため過酷さには変わりはない。今回注目されたのは、ジャパン直前の調整とはいえ、前田、大島を筆頭にしたK'sレーシングのほぼすべての主力だけでなく、スキルAから渡辺麻友、指原莉乃、チームBからも柏木由紀、山本彩の他、今回のジャパンにエントリーされた石田晴香、小林香菜、鈴木紫帆里、3人のクライマーが出場してきていた。栄中日も松井玲奈、須田亜香里を始め主力を投入。本番さながらの豪華な顔触れになっていた。

ただ、あくまでも各チームにとって今日は調整と試走…その他にこのレースに意味を持たせている所は無かった。無理をせず、集団で淡々と山を登っていく。
とは言っても、さすがにプロレベルだ。興味本位で食いついてきた市民レーサーがあっと言う間に置いていかれる。そんな中、島田晴香は集団の先頭近くにポジションを取っていた。一応全開で行くようにという指示は守るつもりだ。しかし…私がどれだけ走れるか見たい…そんな事言っておきながら秋元さん、来てないじゃんか…

5km地点を過ぎた辺りからヘアピンが続き一気に斜度がきつくなってくる。トップレーサー達でもフロントギアをインナーに落とさないと登れない坂だ。
「どうも。はじめまして。アナタが島田さん?」
斜め後ろからふと声をかけられた。島田が声の方向を振り向く。
渡辺麻友の姿がそこにあった。

「は…はい。島田です。」
島田は戸惑っていた。あの渡辺麻友…だよね?あの…ヒルクライム・サイボーグって言われてる。なんで、こんなレース中に私に声なんか?
「確か、私のほうが年下でしょ?いいよ~麻友って呼んでくれて。」
「いや…そんなわけには…」
「うふふふ。聞いてた通り真面目な子だんだね~。ねえ、行こっか?」

行こっか?って…どこか遊びにでも行くような言い方で…
島田が戸惑った表情を見せると急に渡辺がキツイ顔つきになった。
「モノ分かり悪いって事はないよね?どんだけ走れるか見て来いって言われてんの。こんな草レースで本気出すつもり無いんだけど、仕方ないから牽いてあげる。とにかくぴったりついてきて?」
渡辺が島田の背中をぐいっと押すと、そのまま前に出た。小さな身体を躍らせるようなダンシングで一気に加速していく。島田もそれに追いすがるように食らいついた。

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