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15.


「この伊吹山でどこまで珠理奈が登れるか…それを見て決めるって事でいいな?」
「私だって、珠理奈には期待してるんです。山でしっかり実績を出せるなら、私としても文句はありません。でも…今年はジャパンで勝つ…これがスポンサーから出された課題です。その力がないって判断されたら…その時は、いいですね?湯浅さん。」
「わかってるよ。さあ、もうすぐスタートだ。」
湯浅と牧野はスタート会場に設置された大きなモニタービジョンの前に陣取った。今日は地元のCS放送の中継が入ってる。恐らく先頭で走るであろうチームの様子は全部ここでチェックできるはずだ。

滋賀県の伊吹山ドライブウエイを使って行われる「伊吹山ヒルクライム」。標高差1075m、平均勾配7.6度、距離17kmのヒルクライムレースは、それほど難易度の高いコースではない。毎年トッププロが出場してくるような大会ではないのだが、今年は栄中日のレギュラー陣がこぞって出場してきた事で大きな注目を集めていた。

「珠理奈…大丈夫?淡々と登って行けば…前半の勾配の強い所で無理しなければ…」
「玲奈さん、わかってますって。ちゃんと試走もしてますし。そんな心配なんかしてたら玲奈さん、抜かしちゃいますよ?」
珠理奈にも急遽出場する事になったこのレースが意味する事がよくわかっていた。これはジャパンのエースを決める選考会だ。今日ばかりはチームメイトとはいえ敵だと思って走らないと。優勝は取れなくてもいい。せめて玲奈さんについてさえいければ…山岳ではトップクラスの玲奈さんについていければ、平坦での実績で今年も私がエースに選ばれる事には間違いない。私だってこの冬はひたすら苦手克服の為に頑張ってきたんだ。そろそろ将来性云々だけでエースを張れない事も、結果を求められてる事も知ってる。でも…これだけは譲れない。せっかく手にしたてっぺんのポジションなんだ。

号砲が響いた。最前列に並んだ栄中日の選手が一団となって先頭にたつ。勾配が強くなり始めたところで珠理奈が前に飛び出した。
「珠理奈、いきなり飛ばしちゃダメだって。前半は斜度の変化がきついんだから。」
玲奈が声をかける。そう言ったでしょ?そんな口調だったが、珠理奈は一瞬だけ玲奈の方を見てすぐに前を見上げた。さらにペースを上げる

そんな計算なんてしてちゃ駄目だ。このレースで試されてるのは結果だけじゃない。だらけた内容で勝っても恐らくは認めてもらえない。必要なのはジャパンの高いレベルでの山岳ステージで振り落とされないだけの力を見せつける事だ。このストイックな姿勢が、若くして中京地区の名門チームのエースとして活躍出来る原動力だ。珠理奈自身も、また一つ新しい壁を乗り越えようともがいていた。

「仕方ないな。もう。じゃあ、全力で牽くよ?しっかりついてきて。」

玲奈が前に出た。玲奈も分かっていた。自分はエースになれるタイプではない。もちろん、山岳には自信がある。他のチームのクライマーに比べて力が劣ってるとは思っていない。でも…どうも人と競り合うのは苦手だ。引いちゃいけない…そう思っても、誰かを押しのけて前に行く事がどうしても出来ない。ましてや、スプリント合戦なんて…アスリートとして気が弱いのは致命的だって事もわかってはいる。だから…私の本分はアシストなんだ。その為に珠理奈には頑張ってもらわないと…

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