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7.


「で?決断してもらえましたか?珠理奈がエースじゃ総合は取れないんですよ。今年みたく、せいぜい表彰台の一角をかすめ取るくらい。スポンサーもいい加減3位はもういいって言ってるんじゃないですか?」
牧野アンナが湯浅洋に掴みかからんばかりの勢いで詰め寄っている。

名古屋に拠点を置く、栄中日バイクは東海地区でダントツの発行部数を誇る新聞社をすぽサーにしたチームだ。松井珠理奈をエースに据え、総合3位の椅子を3年続けて確保している。また、珠理奈では勝てない。テクニカルマネージャーとして選手への実技指導に当たる牧野は監督の湯浅に早くから進言をしていた。

「ですから…何度も言いますけど、珠理奈は確かに逸材です。この先10年以上、日本のロード界をひっぱって行くだけのものを持っています。ですが、我々はプロです。スポンサーが求めているのは3位じゃありません。トップに立たないと意味がない。スポンサーの意向に添ったチーム運営をする事は、我々スタッフにとって何よりも重要な事のはずです。来年こそ…勝てるチームとして戦略を練り直しましょう。」
「君の言う事は正しい。だけどな…それじゃロマンってものがないだろう?目先の勝ちだけに拘ってては、真のロード界の発展は…」
湯浅のちょっと困ったような弱弱しい回答を牧野が切り捨てた。
「ロマンじゃスポンサーは付きません。」

常に夢見がちで理想論を語りがちな湯浅に対し、牧野は火が出るほどの情熱の中に極めてクールな現実論を持っていた。湯浅は5年先の事を見据え、珠理奈をエースとして使い続けた。まだ、若く持久力が完成されていない珠理奈は、その爆発的なスプリント力に比べ登坂力に弱みを持っていた。今のツールは、どうしても山岳に強いオールラウンダーを持つチームが有利だ。本場のグランツールもそうだし、ジャパンですら超級の山岳ステージが組み込まれており、ここ10年以上に渡って総合は山に強いエースを持つチームが勝ちとってきた。

チームには松井玲奈という存在がいた。細身の体で脚質は紛れもないヒルクライム型。平坦のスプリントではさすがに分が悪いが総合力では国内屈指の力量だ。今年のジャパンでは、山が苦手な珠理奈のアシストに徹したが、単独で山を制する力は十分に持っている。

牧野の考えはわかってる。玲奈をエースに据え、珠理奈を平坦でアシストに使う。総合争いに勝つにはそれが一番の近道だ。それくらい俺にもわかってる。でもな…なんかワクワクしないんだよ。こう、なんていうかさ。燃えてこないっていうか。監督の俺がそんな事言ってるからダメだって牧野は言うんだろうが…

「ま、もうちょっと時間をくれよ。玲奈や他のメンバーとも話をしてみたい。それに、俺だっていつまでも自分のクビが安泰だとは思ってないからさ。ちゃんと考えるよ。俺だって、勝たなきゃいけないって事くらいはわかってる。」
湯浅が牧野に笑って言った。

そう…俺にだって、危機感くらいはあるんだよ…

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