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3.



「ちぃ~っす…」
「おつかれ~…っす。雨っすね~…あぁ~あ、外走りたかったなぁ」
菊地あやかと藤江れいながトレーニングセンターへ入ってきた。広い室内には、様々なトレーニング機器、何台ものスピニングマシンが配置されている。スポーツクラブに置いているようなサイクリングマシンではない、ロードポジションで本物と同じ感覚でトレーニングできる最高機種のものだ。

「おい、いつまでも、だれてるんだよ。今年のジャパン終わってもう二月経つんだよ。もう来年に向けてさ、気持ちしっかり切り替えないと。」
秋元才加が二人に厳しい顔つきで声をかける。ずでに全身汗だくだ。
「優子。アンタからも言ってやってくれよ。」
スピニングマシンにまたがり軽くアップを始めていた大島優子が顔を向ける。耳からイヤフォンを外した。
「ん?何?何か言った?」
あどけない笑顔。子供のような目を大きく輝かした表情に秋元は思わず笑みを浮かべた。

大島優子。前田敦子のいない日本で彼女を脅かす選手は存在しないと言っても良かった。昨年に続き今年もジャパンの総合優勝に輝いた国内最強レーサー。山岳にもスプリントにも強く、そのオールラウンダーとしての才能を余すことなく出しつくし円熟期を迎えた大島は、今最も本場のグラン・ツールに近い女として目されていた。
もちろん、彼女のジャパン連覇は一人の力ではない。総合優勝のタイトルは個人一人の力では到底無しえない事だ。一人のエースを勝たせる為に、チームメイトは持てるもの全てをエースの為に使う。時としてマシントラブルにあったエースに自分のバイクを差し出す事もあるのが、ロードレースの世界だ。

大島が所属する「K's Racing」は大手携帯電話キャリアと大手信販会社をスポンサーにしたプロチームだ。チームの精神的支柱である秋元才加、宮澤佐江、仁藤萌乃といった強力なアシスト陣を擁し万全のチームを構築している。山岳では板野友美という他チームに行けば十分エースを張れる力を持った選手が大島をアシストし、その総合力は他を圧倒していた。

「優子、残念だったね。来シーズンは間違いなくヨーロッパで走るって思ってたんだけど。何?最後は条件面?まだまだ日本人は選手としての評価をまともにしてくれないんでしょ?」
秋元が汗を拭き再びマシンにまたがる。
「うーん…お金じゃないんだな。それに、私はビックチームじゃなくてもいいって言ってるんだけどね。それよりも…」
「ん?それよりも?」
「いいんだ。とにかく、これですっきりしたよ。来年もこのチームでジャパンを取る。シンプルでいいじゃん?」

大島はそう言うと、再びイヤフォンを耳にした。ぐっと顔を引き締めクランクを回すスピードを上げていく。藤江も菊地もそれを見ると急に背筋を伸ばしてアップを始めた。これだ…何も言わないけど、優子はこうやって自分を厳しく鍛える姿を見せつける事で、若手に手本を示している。秋元は大島のアシストとして働ける事を心から誇りに思っていた。自分は決して華やかなスポットライトを浴びる事は無くても、大島を勝たせることが自分の使命だ。秋元は今日も自らの肉体をいじめ抜くトレーニングを始めた。




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