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シーン33.



「いいお店ですね。良く来られるんですか?」
「うん、静かで落ち着くからね。だから、今泉君は連れてきたくなかったんだけど。すまないね。マスター。あ、このマスターはね、フランスの三ツ星レストランでソムリエをやってた事もあるんだよ。」
「そうなんですか?へ~。それでこんなワインバーを?」
「ええ・・・古畑様、これなどいかがでしょうか?」
「すまないね。セオリーを無視して、いきなりフルボディからなんて。今日はなんとなく、重いものを飲みたくてね。」
「かしこまりました。ワインにセオリーはございません。その時に飲みたいワインを飲まれるのが一番です。このワインのパンチの強さがきっと古畑様のお悩みを軽くしれくれる事でしょう。」
古畑の顔に笑顔が浮かぶ。
「一流のソムリエというのは、客の心まで和らげてくれるんだよ。良く覚えておきなさい。西園寺君。今泉君には・・・馬の耳に念仏だろうけどね。」

ソムリエが軽く会釈して、ワインオープナーを手にした。
鮮やかな手さばきでワインのコルクを抜いていく。
「ご覧よ。実に無駄のない洗練された手さばきだ。実に美しい。ワインはただ栓を開ければいいというものではない。ソムリエはこうして美しい動きでワインに命を与えているんだよ。一流のソムリエの手で命を吹き込まれたワイン・・・君たちにその違いがわかるかな?」
古畑の機嫌が良くなってきたようだ。

ソムリエが古畑のグラスに真っ赤な液体を注ぐ。
古畑が軽くグラスを揺すると芳醇な香りが立ち込めた。
満足そうな笑顔で一口、口に含ませる。

「でも、なんか面倒くさいですね。ワインって。第一栓開けるのに、そんな手間かけても味なんて変わるんですかね?僕なんて開ける時、カバーっていうんですか?あの、買った時瓶の口を覆ってるヤツ。あれにコルクに刺すぐるぐるしたトコの先端で穴開けて、びーっって剥いじゃいますけどね。ソムリエさんみたいに、ナイフで切り込みいれて・・・なんて面倒で。あ、古畑さん、今またおでこ叩こうとしたでしょ?」

「・・・・・・」
古畑が今泉の方を向いて黙り込んだ。
「古畑さん?やだなぁ。怒っちゃいました?だってねぇ・・・」
「マスター・・・大変、申し訳ない。この男に一本ワインを渡してやってもらえる?一番安いヤツでいいから。それにワインオープナーも。今泉君、君にはマスターが開けてくれたワインを飲む資格はないよ。自分で開けて勝手に飲みなさい。」

「なんだよ。もうカッコつけちゃって。いいよ、もうそれで。まったくさ。なんなんだよ。」
今泉がワインオープナーを手にした。
今言った通り、瓶の口を覆っているカバーにオープナーのスクリューの先端のとがった部分で穴を開けコルクにスクリューを刺そうとする。
「もうやりにくいなぁ。マスター、あれないの?ほら、瓶を挟むようにしてくるくるっと回すとコルクがあくやつ、あれだと簡単に開くじゃない。」
「申し訳ございません。当店ではその形のものは・・・」

「古畑さん・・・何かを・・・?」
西園寺が古畑の顔を覗き込む。
ワイングラスを傾けながら古畑がニヒルな笑みを浮かべた。

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