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8.企画




秋元康は分厚い資料のページを無言でゆっくりと手繰っていた。
一枚一枚の隅々まで目を通して読み進めては、また何ページか戻って…を繰り返す。
もうかれこれ小一時間経つが一言も口を開かない。
高橋と大島はその様子を見ながら立ったままじっと秋元の言葉を待った。

「まあ、ちょっと座ったらどうだ。いいですよね、秋元先生?」
戸賀崎の言葉にも秋元は視線を上げない。相変わらず資料に没頭したままだ。
時折目を閉じては何かを考えるように顔を天井に向ける。

「高橋…大島…この企画…二人で考えたのか?」
「はい。と言っても殆どたかみなが一人で考えたようなものですけど。」
「確かに、お前たちの卒業コンサートだ。俺たちもいいものにしたいとは思っている。
しかしな…ちょっとこれはだな…」
「無理でしょうか?私達、後悔したくないんです。」
「いや、無理とは言わないよ。しかし、実際問題クリアしなくちゃならん点が多すぎる。
あと半年あるって言っても…それに、たった一日のコンサートの為に、
そこまで準備できる事が出来るかどうか…」
「たった一日だから…だから、やらなきゃいけない事ってあると思うんです。」

大島が戸賀崎と話している間、高橋はずっと秋元の顔を凝視していた。
間違いなく、私の企画の何かがこの人を動かしてるはずだ。
頭ごなしに否定する事は絶対にしない人だけど、決断は早い人だ。
何かが響いてる。でも…何かが引っかかってる。何が?その引っかかりが取り除ければ…

「たかみな。」
秋元が静かに企画書をテーブルの上に置き、その上で手を組み合わせる。
「はい。」
高橋が椅子から立ち上がる。
「どうしてこの企画をやりたいと思うのかな?
自分たちの卒業だからいいモノにしたいというのは解る。
確かに、これが成功出来たら素晴らしいと思う。しかし…大変だぞ?
準備するにも相当の手間と時間…そして君たちの努力が求められる事になる。
恐らく、未だかつてない程のものになるはずだ。」

「分かっています。でも…だからこそやりたいんです。
これは卒業する私達の為だけにやるコンサートではありません。
初期メンバーが抜けるという事は、AKBにとって大きな変化です。
私は…これを機に大きく変わる…また成長するチャンスだと思っています。
このコンサートは…やり切れば伝説になると思います。
そして、AKBが新しいステージに進むために大きな一歩にもなると。
何かが変わらなくちゃ…いえ、自分たちが変えないと。
こんなチャンスは二度とないかもしれません。」


高橋はまっすぐ秋元の顔を見ながら話した。
その直向きな視線に戸賀崎は圧倒されていた。
今までも、この子の直向きさに打たれてきた事は何度もある。
でも…ここまで澄みきった、全く迷いのない高橋の顔を見るのは無かった気がする。
それでも、やっとの事で言葉を挟んだ。
「しかしな…実際に準備のために御時間を確保すると言ってもだな…
各方面への調整やらなんやら…相当大変な事なんだぞ?」
「分かってます。でも、きっとその辺りは戸賀崎さんがやってくれるって信じてますんで。大丈夫ですよね?」
高橋が笑った。すぐに秋元に向かい合い言う。
「秋元先生。この通りです。お願いします。」

「たかみな。一つだけ約束してほしい。」
「はい、何でしょうか?」
「これは、君達メンバーだけでなく、我々も含めて一体にならないと出来ない事だ。
くれぐれも一人ですべてを背負いこまないように。いいね?困った時、キツイと思った時。
その時はすぐに相談する事。優子もだ。いいかな?」
「もちろんです。」

戸賀崎が何をそんな当たり前のことを言うんだ?という表情で首を捻った。

「はい!」
高橋と大島が声を合わせた。
「では行きなさい。詳しくはすぐに関係者を集めてキックオフする事にしよう。」

二人が一礼して部屋を出て行った。
「戸賀崎、すぐに各プロダクション、事務所、マネージャー…運営。すべてと調整を始めなさい。
揉める所へは私が直接出向く。6月9日まではこのコンサートにファーストプライオリティを置く。
スケジュールの確保に何らかの金銭的な補償が必要であれば構わない。
幾らでも向こうの言い値で保障しよう。それから、有明か台場…臨海方面で土地を探してくれ。」
「分かりました。ふう…大変な事になりそうだ…」
「戸賀崎。随分、嬉しそうじゃないか。」
「分かりますか?そういう先生も。久しぶりに見ましたよ。そんな顔。」

秋元はそれには答えず、くるっと後ろ向きになり窓の外を眺めた。

頼む。時間よ…ほんの少しだけその歩みを緩めてくれ。
私達に…
いや、彼女たちに、時間を…少しでも多くの時間を。

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