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「秦さん。お待たせしました。早く行きましょう。」
「え?行きましょうって…テレビのインタビューは?珠理奈さんが着替えるの待ってるみたいですよ?区間新のヒロインなんですから…」

「そんなの、大手町で受けますよ。優勝インタビューでね。
それより、秦さん、その珠理奈さんって呼び方やめてくださいよ。敬語も。私の方が年下なんすから。さ、行きましょ。戸塚駅まではタクシー使いましょうよ。早くしなくちゃ。高柳さん、私に待ってて…って。」

「そうです…そうだね。珠理奈!じゃあ、行っちゃおうか。」

「あの…あのすみません~松井さん?松井さ~ん」
慌てるテレビクルーを背に、二人は駆け出した。

これまでの激動が嘘のように、一見10区は静かに10キロ地点まで進んでいた。
先頭の平嶋、そこから40秒差で高柳。仁藤と篠田が10秒あった差を徐々に詰め、
3人が一つの塊になろうとしてるのが変化といえば変化だった。

平嶋は迷っていた。残りはあと半分ちょっと。40秒の差なんてあってないようなものだ。
何しろ後ろには篠田がいる。高柳だって仁藤だって油断出来る相手じゃない。
ここは追いつかせて相手の出方を待ったほうがいいんじゃないか?
後ろを気にする事に神経を使いたくない。長距離走でも頭の疲労っていうのが実は一番ダメージが出るんだ…むしろ、早めに仕掛けたほうがいいんじゃ…

伴走車の浦野も迷っていた。何しろ、こんなに痺れる展開になるなんて思いもしてなかった。
どう指示を抱いていいのか…

迷いを持っていたのは、浦野だけではなかった。経験豊富な篠田も、そして伴走車の高橋も同じだ。勝つための戦略…その最善策がどこにあるのか。その事が頭から離れなかった。

しかし、もっと純粋な思いを持っている者がいた。一人は学連選抜の伴走車に乗る戸賀崎だ。
ここまでの彼の周到に見えた戦略も実はシンプルなコンセプトの中で組み立てたものにすぎない。それぞれが一番輝ける場所は?一番そいつらしさが出るのはどこだ?それだけだ。

「お~い。高柳。なんか縮こまってないか?お前はチームの為に走ってるんだろ?
でもな、ここまでの9人、そうやって縮こまって走ってたヤツがいたか?
このチームはお前のチームだ。お前がキャプテンだ。
キャプテンのお前がそんなウチのチームらしくない走り方してどうすんだ?
勝つか負けるかなんて関係ねえよ。その責任を取るのが俺だ。
お前は、キャプテンとしてこのチームに相応しい走りをすりゃいいんだよ。
よ~く考えてみろ。お 前のチームはどんなチームだ?」

そして、もう一人…

ただ、篠田に自分の走りを見せたい。見てもらいたい。
それだけをシンプルに考えていた仁藤萌乃だ。

このままただ前を走ってるだけじゃ、去年と何も変わらない。
行かなきゃ。いいよね。行っていいよね。だってまだ余裕はある。
多分、ここで行ったって篠田さんはついてくる。まだ先は長いもん。
でも、ここで行かなきゃ、また最後まで行けなくなっちゃう…

仁藤は一瞬篠田の方を見た。目が合う。
思わず仁藤は頭をぴょこっと下げた。挨拶のお辞儀をするみたいに。
篠田が一瞬笑ったような気がした。

同時だった。高柳と仁藤がスパートをかけた。

篠田は…
反応出来なかった。そのままずるずると後退していく。

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