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箱根駅伝でクローズアップされがちなのは「花の2区」と「山登り」。
しかし、過去の大会において勝負を決する機会が圧倒的に多いのが9区だ。
「裏エース区間」と言われるようにアップダウンの多い、しかも最長距離を走る9区にどれだけ強い選手を配する事が出来るか。10人で襷を繋ぐ箱根駅伝の最も難しいと言われる所以でもある。

珠理奈は下りの勢いそのままに権太坂を駆け上がった。
今度はまた長い下りに入る。

長距離走のトレーニングでは近年心拍を管理して行う事がトレンドになっている。安静時の心拍数を元に最大心拍数を算出し、トレーニング中の心拍数を管理して効果を高めるというものである。持久力を強化する時は最大心拍数の50~60%程度までしか心拍を上げずに長時間ゆっくり走る。心肺機能の強化には短時間で最大心拍数近くまで上がるように負荷をかけ、インターバルを置いてそれを繰り返す…いわゆる化学的トレーニングというヤツだ。
珠理奈は、高校時代からいち早くこの論理に着目してきた。確かにそれは結果となって現れた。レースの時は心拍計をつける事は出来ないが、常に珠理奈の頭の中では心拍数が管理されるようになっていた。

だが、今日は違う。
ラップを把握する時計は捨てた。頭の中の心拍計も今日は動かさない。
その代わり、脚が、腕が、肩甲骨が、股関節が、心臓が…そして心が…魂が私に指示を出す。
もっと行ける。もっと、もっと…って。
時々、今までの私が顔を出す。ダメだ。序盤から心拍上げすぎだって。
でも、すぐに違う私が現れてそれを打ち消す。
何言ってるんだ。そんな走りしてつまんねーだろって。

心が躍る。
これまでに味わった事がない感情が湧き上がってくる。

「珠理奈…走るのって…楽しいよね?」

松下の顔が思い浮かんだ。あの時は答えられなかった。
でも、唯先輩。今ならちゃんと答えられそうです。
まだ、本当に楽しいって言えるかは分からないけど…
きっと、楽しいってこんな風に思えるってことなんじゃないですか?

ね。唯先輩。

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