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9区は最初下り基調でスタートする。
序盤の大きな難所、2区とは反対に権太坂を登るまでにどれだけペースをつかめるか。そこがポイントだ。

9区を走る選手はスタートしてすぐに大きな決断を迫られる。
前との差を追って突っ込んでいくか、後半に備え静かに立ち上がるか…
珠理奈はもちろん前者を選んだ。いきなり全開で飛ばした。

1キロ手前でまだ渡された襷を丸めて手に握ったままだった事に気付いた。
肩にかけ、襷を締める。余った部分をランニングパンツの中に仕舞い確かめるように襷を握る。

重い…

去年は1区だった。特に襷の重さなんて意識する事はなかった。
珠理奈は襷に目を落とした。真っ白な襷はところどころ染みが出来、僅か2日の間に随分と色あせたような気さえする。
汗…涙…そして…

珠理奈はぐっと襷を握りしめた。また笑みを浮かべる。ピッチがまた一段と上がった。

「おい、珠理奈。お前、時計はどうした?」
伴走車の戸賀崎が声をかける。珠理奈は戸賀崎に見えるように左手を上げ、手首をぶらぶらと振ってみせた。
忘れたんじゃないですよ。わざと持ってないんですよ。そう言うかのように。
珠理奈の走りの特徴は若さ溢れるアグレッシブさと、その若さに似合わない冷静なペース配分が出来る事…
その両面を兼ね備えた上で自分の力を適切に自己評価し、それを使い切る為に上手くコントロールできる。
それが珠理奈の強さだとも言われていた。
しかし、今回その手にはペースを知るための時計がない。

「アイツ…とことん行く気だな…」

最初の5キロ、珠理奈と先頭との差は2分45秒。僅か1キロの間に1分縮めた事になる。
珠理奈はギアを入れ替えた。権太坂が目の前に壁のようにそそり立つ。

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