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山下りが始まった。
標高差860mを一気に駆け下りる6区は山登り以上に過酷と評される。
世界トップクラスの選手並みのスピードで曲がりくねった山道を下っていく。
路面からの衝撃が容赦なく選手を痛めつける。おまけに今年はこの雪景色だ。
除雪が行われているとはいえ、路面は凍結し極めてスリッピーな状態になっている。
トップの倉持も2位に上がった板野も慎重に山を下り始めた。

「須田。ここからだ。いいか…?躊躇するな。ここからお前に必要なのは勇気だ。
坂を転がり落ちるつもりで行け。」
戸賀崎から初めて指示が出た。ここまでこれだけペースが上がらないのに何も特に指示がなかったのに…
須田は泣きそうな顔を戸賀崎に向けた。

大丈夫だ。
戸賀崎が笑った。
よし…行ってみよう。私にもきっと何かがあるんだ。
往路はみんな戸賀崎さんの言う通り何かを起こしてきたじゃん…

テレビの映像は先頭の倉持とそれを追う板野の二人ばかりを写すようになった。
徐々に板野が倉持との差を詰めているようだ。ただ、相当に足元が悪いらしい。
テレビを見ている珠理奈さえ、時々「危ない!」と声を上げそうになった。
何度も何度もバランスを崩す二人の様子をアナウンサーが煽るように実況していた。

ペースが上がりませんって…そりゃ、そうよ。
こんな滑りやすい路面状態で誰が全開で突っ込んで行けるかって。
そうだな…去年の渡辺さんの記録より、3分…いや5分以上遅くなっても仕方ないよ。
珠理奈は思っていた。

「2位の慶育大、板野友美が小涌園前を通過します。トップの秋英大・倉持明日香が通過して23秒。
スタート時にはその差が42秒ありました。着実に…着実に差を詰めています。板野友美。」
小涌園前は定点ポイントになっている。通過タイムのチェックに良く使われる場所だ。

その時、突然アナウンサーが声を大きくした。

「あっと、板野のすぐ後、須田です。白地に赤字の襷、学連選抜の須田亜香里が小涌園前を通過します。
その差…8秒。4.7km地点、国道1号最高点では板野との差は58秒ありました。
なんと須田、この5キロ弱で板野との差を50秒、倉持との差を1分以上も縮めてきました。」

なんだって?
中継所でテレビを見ていた者全員が驚きの表情を見せた。
珠理奈も思わず立ち上がった。

いったい…戸賀崎さん…あなたはどんなマジックを使ったんだ?

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