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横浜駅の定点ポイントを過ぎ矢神は一度後ろを振り返った。
中継点では1分あった差が徐々に縮まっている事は肌で感じていた。
それでも、矢神は柏木の姿を確認してちょっと驚いた。

近い…

まだ9キロ手前…こんなに速いのか…学生トップクラスって。
「矢神。柏木が来るぞ。いいから、焦るな。大人しく追いつかれろ。
そこからが…追いつかれてからがお前のレースだ。」
伴走車の拡声器を通して戸賀崎の声が響く。

矢神はエントリー発表のミーティングを思い出していた。
「前にいる誰かを照準にって言ってたな…監督。でも、前になんか誰もいないのに…
そっか。途中で追いつかれるってわかってて言ったのかな?柏木さん…
私についていけるんだろうか?でも、まあいいや。騙されたつもりで行ってみるか。」

そう思うと矢神の身体から力が抜けた。振る腕も足も軽くなった気がする。
あれ?やっぱ緊張してたんだ。柏木さん、早く来ないかな。

一方で柏木は焦っていた。序盤から思うように身体が動いてくれない。
麻友がトップから遅れたのは計算外だった。だが、慶育には1分近く差をつけていたし、
何より秋英が大きく遅れたのは柏木にとって好材料のはずだった。先を行く学連選抜は正直余り眼中になかった。
それでも1区、木本の快走は柏木に大きなショックを与えた。

駅伝には…とくに箱根には説明のつかない力が働く事がある。その力をもたらすのに大きいのが「勢い」だ。
去年の私たちがそうだった。私の2区の区間2位と麻友の6区区間賞でチーム全体に勢いが生まれた。
その「勢い」がこのまま学連選抜に本当の力を与える前に…何とか自分たちにその勢いを持ってこないと…
柏木の焦りとは逆に前との差はなかなか縮まらなかった。

ようやく矢神を捕まえたのは、残り10キロ、権太坂の直前だった。柏木はそれほどアップダウンに強いタイプではない。去年はたまたまこの2区最大の難所と言われるこの坂の手前で秋英の前だと並んだ事で引っ張られる形で走れた…今年は違う。私がここで一気にいかないと…

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