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もう終わりなのかぁ。つまんないな。もうちょっと走ってたかったなぁ。
自分でもびっくりしちゃった。あの瞬間、渡辺さんがなにを考えているのかが手に取るようにわかった。
ヤバいって声が聞こえてきたような気がしたよ。
私がダッシュで逃げてる時も後ろから「待って待って」って。
これで良かったのかな?監督には、好きなように走れって言われたからそうしたけど。
なんか鬼ごっこしてるみたいだったなぁ。
あ、くーみんさんが見えた。手振ってる~。そっか、私一番なんだ。区間賞って事?
スゴイ。1年生で1区で区間賞なんて珠理奈さんみたい。珠理奈さん、今日は来てないよね。
明日走るんだもんね。あとでメールしよっと、私頑張ったよって。

テレビのアナウンサーが絶叫していた。
「箱根に新星現る!1区でなんと、とてつもない区間新記録が生まれようとしています!」
木本は後ろを振り返らなかった。襷を外し両手でそれを身体の前に掲げる。
笑顔がこぼれる。矢神久美も満面の笑顔でその襷を受け取った。
「のん。楽しかった?」
「はい。とっても。久美さんも楽しんで!」
矢神が小さく握った拳の親指を立ててスタートしていった。

木本のタイムはこれまでの区間記録を実に45秒も更新するものだった。

1分ほど遅れて渡辺が入ってきた。
まっすぐに木本の所に歩み寄ってくる。
「さ…最初か…ら、狙って…た?あ…あそこで、スパートしよう…って?」
息を切らしながら木本に聞く。
「あ、いえ、なんとなくここかなって…とっさに思ったらダッシュしちゃってました。」
木本はあっけらかんとした顔で答えた。
「そっ…か。参った。私の負けだね…」
「あ、でも~、とっても楽しかったです。また、一緒に走ってくださいね!」
木本が差しだした右手を渡辺は握り返した。
「楽しかった…か。そうだよね。走るのって楽しい事だったんだよね。
頭で計算しながらなんて…私が勝てなかったわけだ。」
渡辺が苦笑いを浮かべた。


鶴見の中継所に続々と選手が入ってくる。
矢神に次いで柏木由紀が飛び出して行った。慶育の秋元才加も8位で梅田からの襷を受け取った。
15位までは完全に団子状態だ。
大家が遅れている。その情報は当然前田敦子の耳に入っていた。付き添いの多田が心配そうに前田の顔を覗き込む。前田の表情は落ち着いたままだ。むしろ柔らかな笑みさえ浮かんでいる。多田は一瞬寒気のような緊張感を覚えた。この…身にまとったオーラ…これが、学生いや…国内No.1ランナーがレース前に纏う空気なのか…

前田がアップコートを脱ぎ、中継所に向かってゆっくりと歩き始めた。中継所を取り囲む何重もの人垣が前田のに道をあけるかのように開かれていく。なんて静かなんだ…こんな喧騒の中で前田さんのあの優雅さは…こりゃ、この人、今からとんでもない事やるな…
多田がそう確信した。

フラフラになって入ってくる大家の姿が見えた。1区最下位だ。前田は声をかけるでもなく、ただ両手を広げて顔をくしゃっとして笑った。それだけの事で大家に最後の力を与えたようだ。最後の最後でペースが上がる。
「すんません。本当にすんません。」
そう言いながら襷を渡す大家の背中をぽんぽんと二つ叩いて前田がスタートした。
トップの学連選抜が通過して3分7秒。
「じゅうぶんだよ。安心しな。」
そう言いたげな涼しい表情だった。

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Comment

花音やりましたね

あっちゃんはどんな走りをするのか…

2011.12.09 (Fri) | レン #- | URL | Edit

>>レンさん

あっちゃんは行きますよ~
なんたってエースですから。

2011.12.09 (Fri) | 四谷 #mQop/nM. | URL | Edit

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