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1月20日  秋英大陸上合宿所

「高橋。そろそろ決めようか。」
総監督の秋元康が目の前に置かれた資料を見ながら言う。
細かいデータがびっしりと書き込まれている。

「はい。決めました。今年は…走りません。いえ…走れません。」
「いいのか?本当に。」
「冷静に秋英大のキャプテンとして判断しました。ベストに近い力で走れるかもしれません。しかし、ブレーキを起こしてしまうリスクは残ります。ウチの戦力では私がリスク要因を抱えたまま走るより他のメンバーに走ってもらう方がより優勝の可能性が高いという判断です。」

「そうか…高橋。良く辿りついた。私はお前を誇りに思うよ。」

「ありがとうございます。では、私はこれで…」

高橋は部屋を出ると、唇を噛みしめた。

本番まで僅か。明日は最初のエントリー提出日だ。大会前々日と当日にエントリー変更が認められている。当日までエースクラスを補欠に回し他校の様子を見るのはよくある常套手段だ。しかし、大体の戦略、主要区間に主要メンバーをどう配するかはそろそろ決めておかなくてはならない。走れるとしたら…4区…いや、最近の4区は距離の短さから各校スピードランナーをつぎ込んでくる。ハイスピードのレースになると膝への負担は大きくなる。じゃあ…5区か。高橋自身、登りには自信を持っていた。2年の時に走って区間3位の実績もある。最後に下りがあるとはいえ、登りは意外に膝への負担が少ない。だからリハビリでも積極的に山を走ってきた。

しかし…

「入るぞ。」
高橋は指原の部屋のドアをノックした。
「あ…あ、たかみなさん…どうぞ。」
「しかし相変わらずだな、お前の部屋は。敦子や麻里子はわかるけど。同じチームだからな。
でもな、大島や柏木の写真はないだろ?仮にもライバル校のエースだぞ?」
「あ…すみません。でも、私にとっては憧れの選手なんで…」
「お前…ヲタクだな。もはや。でも、何で私の写真がないんだ?」
「たかみなさんは…毎日夢に出てきますから…」
指原は微妙な顔をした。
「どういう夢だか…ま、いいや。ちょっと話したいんだけど、いいか。」
高橋と指原は合宿所を出て、競技場のスタンドに並んで腰かけた。

「5区、走ってもらうからな。」
高橋は前置きなく切りだした。
「はい。」
指原は驚いた顔を見せることなく返事をした。

お?無理です~。ダメです~とか、そんな泣きごと言うのかと思ったけど…
「あれだけ、叩きこまれましたからね。山ばっか。最近クロカンの選手って思っちゃうくらい。どこまで行けるかわかりませんけど。きっと2区で前田さんがいっぱい貯金作ってくれると思うんで。たかみなさんは?何区なんですか?4区とかで来てくれると嬉しいな。たかみなさんから襷受け取ったら気合い入りそう。っていうか、ひゃ~って走りだせそう。」

「指原…私は今年は走らないんだ。」
高橋は言った。顔は正面を向いたままだ。指原には横顔しか見えない。
「え…?たかみなさん。足…が?」
「いや…もう痛みはないよ。でも、いつまたぼんってなっちゃうかわからないからな。」
「そんな…じゃあ、そうだ。5区、5区走ってくださいよ。登りなら膝への負担少しはないですよね。
最後下りちょっとあるけど…5区ならたかみなさん、走った事あるし。」

「指原。私だって走りたいよ。最後の箱根だしな。でもな。私は秋英のキャプテンなんだ。
チームが勝つ事が私の一番望む事なんだよ。だから…私は走らない。
勝つために…その為に私はキャプテンとして、秋元監督に言ったんだ。」

高橋は指原の方に顔を向けて力強く言った。
「今年の5区は…指原。お前だ。」

指原…おい、泣くなよ。
まったく、お前は本当に泣き虫なんだから。
こっちまでぐっときちゃうじゃないか。これでもな、ガマンしてんだよ。泣くの。
でもな。私は今は泣かないよ。
きっとお前が泣かせてくれるんだろ?
芦ノ湖のゴールでお前を待ってるからな。大島より先に入ってきたら…

お前の前で大泣きしてやるよ。
だから、今は私は泣かないよ。


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Comment

最良の判断だとしても後悔しないとは限りませんよね…

2011.12.07 (Wed) | レン #- | URL | Edit

>>レンさん

難しいところですよね。確かに…

2011.12.08 (Thu) | 四谷 #mQop/nM. | URL | Edit

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