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1月5日  愛知県熱田神宮

年が明けた。正月の箱根駅伝は今年もものすごい盛り上がりを見せた。
優勝候補の筆頭と目された駒澤大が前半から大きく失速。早稲田、中央といった古豪が順位を伸ばせない中、往路優勝の法政大が区ごとにトップが入れ替わる激戦を押さえ初の総合優勝を果たした。
また学連選抜が一時復路でトップに立つなど波乱の展開に一役かった。
世間の話題は早くも2月の女子箱根駅伝に移っていた。
秋英の4連覇か慶育か。
「優勝を狙う。」そう戸賀崎が公言し、話題を呼ぶ学連選抜の男子に続く活躍にも期待の声が上がっていた。


「あけましておめでとうございます。」
高柳と秦が戸賀崎を始め、四ツ谷大の一行を迎えた。
「わざわざ名古屋まですみません。」
玲奈を先頭に栄女子大のメンバーも揃った。珠理奈もいる。
「おめでとう。しかしなぁ…年頃の女の子がこれだけいて、揃いも揃ってジャージかよ。
一人くらい振袖着てくるとか…なかったんかなぁ。」戸賀崎が苦笑する。
「あ、そないな事言うたら、セクハラ言われますで?監督。」
山本の言葉に笑い声が起こった。

本番まであと1ヶ月。
学連選抜のメンバーは箱根での必勝祈願と最後の全体練習を行うため名古屋入りをしていた。

合宿から1ヶ月ちょっと。

珠理奈の調整は上手くいっていた。
調子は悪くない。いや、むしろ絶好調と言っても良かった。
今すぐ大会があれば…そう思う位だ。

合宿以来大きく変わった事が一つある。走る事の他これといった趣味のない珠理奈は練習時間以外の時間の使い方が下手だった。映画を見るわけでもない、本を読む訳でもない。買い物に行くわけでもなく、友達とカラオケに行く訳でもなかった。そんな珠理奈が合宿が終わってからというもの、携帯電話を握りしめる時間が増えたのである。

メールだ。

それまで珠理奈の携帯に登録されていたアドレスは、実家の両親くらいだった。
それが、毎日のようにメールが飛び込んでくるようになった。特に木本からのメールがひっきりなしに。珠理奈は最初、どう返事していいのかすらわからなかった。だって「今から授業です~。寒いよぉ~(+_+)」なんてメールになんて返事すればいいんだろう…島田からもよくメールが来た。膝の具合や、新しいシューズを買う事の相談、他のメンバーの様子…こちらへの返信はすぐに出来た。

こんな風に、誰かとコミュニケーションを取る事なんてなかった。
いつの間にか、珠理奈も自分から取りとめのない事をメールするようになっていた。

同じサカジョのメンバーとも良く会話をするようになった。
もちろん、ぶつかる事が無くなった訳ではない。特に玲奈と矢神とは、合宿の一件以来ちょっと気まずくて話をするのを避けていた。玲奈も矢神も特に気には留めていなかったのだが。それでも、これまではした事もなかった、テレビの話や好きな音楽の話なんかを食事の後延々とする事が増えていた。

「珠理奈さんって、結構マメですよね~」
本殿にお参りした後立ち寄った茶店で木本が言った。
「マメ…?そんな事初めて言われた。」
「だって、メール、すぐに返してくれるじゃないですかぁ。なんか、どうでもいいような内容のメールにだって、そうなんだ~って。のん、感動しちゃってます~」

え?メールって、基本的にすぐ返すものじゃないの?だって、相手だって返事来ないと気分悪くなるだろうし、第一失礼じゃ…
いや…あんな律儀に返さなくても良かったの?

「そうだよね。珠理奈ちゃんとメールしてるとチャット状態になっちゃう。」
島田も木本に同意する。
「あ、私は…」
「珠理奈は真面目なんだよ。ね?」
急に矢神がにっこり笑った。
「あ、真面目っていうか。」
「あ~珠理奈、赤くなってるよ。へ~こんな可愛いトコあったんだ。へ~」
高柳も笑う。

珠理奈は周りのメンバーを見渡した。
みんな笑ってる。いい顔…してる。みんなこんな風に笑うんだ。
走ってる時の苦しい顔…と違う。

あれ…なんか心地いい…楽しい。
なんだろう、この感覚って…

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