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11月20日  千葉県南房総市


学連選抜チームは1週間の合宿に入った。

本番まで2カ月ちょっとのこの時期に合宿を張る事は、各自の実力向上というよりは、チームの一体感を高める目的の方が大きい。寝食を共にする事で産まれるものは決して少なくないはずだ…戸賀崎はそう思っていた。

「まだ、このチームのキャプテンを決めてなかったな。」
戸賀崎が集まった選手を前に言った。大学駅伝における主将の役割は実に大きい。
強いチームには必ずいい主将がいる。

「誰かやりたいってヤツはいるか?1年でも2年でも構わないぞ。」
戸賀崎の言葉に誰も反応しない。まあそうだろうな。誰も火中の栗に手を突っ込むような事はしたくない…
おっと、それは言い過ぎか…

「誰も立候補しないなら、俺が指名するぞ。いいな?」
全員が頷いた。

「じゃあ、高柳。お前だ。」
「え?」

高柳が驚いた顔をあげた。
まさか自分が指名されるなんて…まぁ、確かに4年生だけど…
でも、実績とかでいえば玲奈だし、主将っていうなら監督、自分のトコの島田を選べばいいじゃないですか?
そもそも、なんで私?

「なんで自分が、って顔してるな?」
「え…?ええ。はい…」
「そうだな。お前が一番声が大きいからな。」

それだけなの?それだけの理由で?
幾ら学連選抜たって、マスコミの取材とかあるでしょ?
どうせサカジョの二人に集中するとはいえ、主将って事になると、少しはそういうトコに出てかなきゃ…
そっか…それってチャンス?金大の宣伝にもなる…のかな?
ま、いっか。目立つのは嫌いじゃないし。

「わかりました。お引き受けします。」
「じゃ、いっちょ合宿開始の円陣でも組んでくれよ。」

「なんて掛け声しよっか?みんな、それぞれのガッコでやってるよね?」
「キャプテンのトコのでいいですよ。たまには他のガッコのやってみたいな。」
木本が無邪気に笑う。この子は、いいムードメーカーになってくれそうだ。
笑顔がいい。高柳はそう思った。

「わかった。じゃあ…しゃわこ、やるよ。」
「了解です、まずはお手本ですね。」

「私たちは」「1人じゃない。」
「感謝の気持ちを」「いつも胸に。」
「絶対」「悔いを残さない。」
「それゆけ」 「金大!」
「突っ走れ」 「金大陸上部!」

「…ってヤツなんだけど…」
「カッコいい!」「いいじゃん!気合入る~!」
場が一気に盛り上がる。
「最後のトコなんで言おう?学連?選抜?」
「学連ってなんか響き悪いよね。選抜っていうのは素敵な響きだけど。」

「じゃ、最後のトコはアドバルーンあげちゃいません?優勝だ!とか」
そう言った市川の顔を全員が覗きこんだ。
「優勝?マジで?」
「いや、それは大風呂敷広げすぎじゃない?」

「どうしてですか?このメンバーなら全然夢じゃないでしょ?」
市川はきょとんとしていた。どうやら、真剣にそう思ってるらしい。
高柳は思った。この子も面白い。なんか、楽しくなってきたぞ…

「よし、じゃあ。それゆけ!選抜!突っ走れ!優勝だ!これでいこう。」
「オッケー!」
「じゃあ、行くよ!」

「私たちは」「1人じゃない。」
「感謝の気持ちを」「いつも胸に。」
「絶対」「悔いを残さない。」
「それゆけ」 「選抜!」
「突っ走れ」 「優勝だ!」

笑顔と歓声で円陣が解けた。

「感謝の気持ち…か。」
珠理奈は一人、考え込んだような表情でみんなから離れた。

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