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簡単な自己紹介だけで、選手たちはそれぞれ思い思いにアップに入った。
「思った以上にテンションが低いな…」
戸賀崎が横にいた島田に言う。

「仕方ないですよ。予選会からまだ10日かそこらしか経ってないんですから。
まだ、気持ちの整理がついてないんじゃないですか?それ言うならウチの学校だってそうじゃないですか。」

「じゃあ、ちょっと試してみるか。」
「試すって?何をですか?」
「よ~し、アップが終わったら集まってくれ。」
戸賀崎が大きな声を出す。トラックに散っていた選手がばらばらと集まってくる。

「これから、タイムトライアルをやる。まだ予選会の疲労が取れてない者も多いと思うので、今日は5000でどうだ?」
「監督…タイムトライアルって…」島田 が首をかしげて言う。
集まった選手も口には出さないが一様に疑問を持った表情をする。
本番のレースを走ったばかりの今の時期にタイムを取って何か意味があるのか?

「いいんだ。知りたいのはタイムじゃないんだ。」
じゃあ一体…?誰もがそう思っていた。その気まずい沈黙を破ったのは最年少の木本だった。
「楽しそうですね。タイムトライアルなら誰がどんな走りなのか、身近で見れますからね~。ただペース走なんかよりみんなその気になるでしょ?私、珠理奈さんの切れ味鋭い走りに憧れてるんです~」
ほぅ…なかなかカンがいい。戸賀崎はにやっと笑った。そう、今の力を知りたいんじゃない。今、どんな気持ちでこの寄せ集めの練習会に参加してるのか。俺が見たいのはそこなんだよ…

「レディ~…ぴっ。」
仲俣の笛の合図で急きょ設定された5000のタイムトライアルが始まった。

ぽんと飛びだしたのは木本だ。笑顔が浮かんでいる。走るのが楽しくて楽しくて仕方ないといった感じだ。ウチの市川と同じタイプかな…?そう思っていたら、ほら行った、市川だ。あっという間に二人が並んで先行した。その差が徐々に広がっていく。1000を通過した時点で後続とは12秒の差がついた。

1500辺りで集団の後方にいた珠理奈がするするっと上がっていく。もう身体は十分あったまったからとでも言いたげな上がり方だった。集団の先頭にいた玲奈の顔を一瞬見てそのまま前の市川と木本との差を詰めにかかる。
2500を過ぎたところで、珠理奈が木本と市川を一気にかわした。そのまま独走する。

「さすがですね。もう誰も追いませんね。追えないって言う方が正しいんでしょうか。」
島田が戸賀崎に言う。
「そうだな。しかも闘争心も大したもんだ。木本と市川を抜くときの顔見たか?」
「いえ。どんな表情でした?」
「どや顔っていうのか?勝ち誇ったような顔だったよ。」
「噂通りって事ですか…?」
「噂?俺はとてつもなく強いって噂しか聞いた事がないけどな。」
「え?だからその噂どおりって事じゃないんですか?」
「いや…俺にはそうは見えなかったけどな。」

あの走りを見て、どこに弱さがあるって言うのだろう?
島田は戸賀崎に何が見えているのか、皆目見当がつかなかった。

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