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11月4日 千葉県柏市 秋英大学総合グラウンド

「ラスト1000!ラップ45、46、47…」

トラック脇でストップウオッチを持ったマネージャーの多田愛佳が大きな声をかける。
先頭を走るのは、学生長距離界…いや、日本長距離界のエース、前田敦子だ。
2月の箱根女子駅伝に照準を合わせたこの時期は、負荷の高い練習量で選手を追い込んでいく時期だ。
夏場のハードな練習の疲労を一旦抜いたあと、この時期にもう一度地力アップを目論む。
箱根のシード権を持つ学校にしか許されない調整法だ。
シードを持たない学校はこの時期に一度ピークを作らなくてはいけない。
本番までに再度力を上げていくには、どうしても時間が足りなくなる。

「指原!ここから粘るんだよ。食いついていけ!粘れ!」
トラックの外周をジョグしながらキャプテンの高橋みなみが声をかける。
先頭をから徐々に遅れ始めた指原莉乃への叱責に近い激励だ。

3000メートルをハイピッチで走り、ほんの僅かの間をおいてまた3000を走る…これを繰り返すインターバル走はトレーニングとしてもっともハードなものの一つだ。5本目を終えた各選手は空を仰ぎながらクールダウンに入る。前田敦子、篠田麻里子、小嶋陽菜、高城亜樹、倉持明日香といった学生界の強豪ランナーからやや遅れてゴールに入った指原はその場に倒れ込んだ。

「ダメですよ~、指原さん。ちゃんとダウンしなきゃ。」
「も…もうダメ…む…無理。指原…もう限界だから…愛ちゃん…いじめないで…」
指原の目には涙すら浮かんでる。
「も~…本当にヘタレなんだから…」

「愛ちゃん。指原のラスト1000のラップは?」
「あ…はい。1本目から…3"14、"16、"15、"21、"30 です。」
「だから、何回言ったら分かるんだ。ラスト2本は落とすんじゃなくて上げるんだって。
そこで粘れないからお前はいつまでたってもダメなんだ。
苦しい時に踏ん張らないといつまでたっても伸びないぞ!そんなトコでへばってないでダウン行って来い!」

「は…はいぃ…」
指原はよろよろと立ちあがった。

「たかみなさん、相変わらず指原さんには厳しいですね。」
「愛ちゃん、あいつをあんま甘やかしちゃダメだよ~。すぐサボろうとするんだから。」
「でも、指原さん、頑張ってると思いますよ。この1年で一番記録伸びたし。
それに今期10000の学生ランキングベスト10入りしたじゃないですか。
分かってますよ、たかみなさん、わざと指原さんに厳しくあたってるんでしょ?」
「いや、私はただあいつが、いつまでたっても…」

憎まれ口をたたく高橋を見て、多田はくすっと笑った。この人はいつもそうだ。厳しくあたってるけど、中身はホントにあったかい。いつも細かい事まで気を配っている。だからこそ、この名門秋英大でキャプテンとして絶大な信頼を得ているんだろう。

だから…多田は故障を抱え別メニューで調整する高橋の焦りを思うと胸が苦しくなった。みんなが一番苦しんでるこの時期、自分だけが追い込んだ練習をする事が出来ない事が、どれだけじれったいか。多田自身も怪我で選手生活に終わりを告げた身として、高橋には無理をしてほしくなかった。

「愛ちゃん。大丈夫だよ。言われなくても無茶はしないから。」
高橋は多田にウインクして笑った。

参ったな。この人は何でも分かってるんだな。さすがだわ。
多田も高橋に笑みを返した。

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