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突然だった。本当に突然。
3ヶ月に一回の慰問コンサートにわさみんがやって来たのは。

森昌子が来るって聞いてたんだ。
そしたら、わさみんがいきなりステージに一緒に上がってきてさ…

僕は前から2番目の席に座っていた。
まさか、僕がいるって知らないよな。知ってたら来ないだろうしな…
僕は帽子を目深にかぶり、うつむき加減でステージを見上げた。

わさみんの歌声は天使のようだった。
力強く、優しく、そして暖かく…心の中のつっかえをすべて洗い流してくれるみたいだ。

受刑者たちの目に涙が浮かぶ。
置き忘れてきた大事なものを思い出してるかのような顔だ。
僕もそうだ。
でも、僕は何を置き忘れてきたのだろう?

「最後の曲を聴いていただこうと思います。この曲をご披露するのは、実は今日が初めてのことになります。
ずっとずっと大切にしてきた曲です。
どうか…皆さんも、心の中にしまった大切な何か…大切な方、大切な思い出…
そんなことを思いながら聴いてください。」

わさみんはそう言って静かに歌い始めた。

僕は自分の耳を疑った。
この曲は…
あの日、僕が秋元先生の前でたどたどしくギターで紡いだメロディだった。

わさみんは目を閉じて、語りかけるように歌った。

私はあなたを笑顔で迎えることが出来るだろうか。
ずっと自信がなかった。
でも、今なら言える。

私はいつまでもあなたを待っている。


そんな内容の歌詞だった。

僕は泣いた。涙が止まらなかった。
涙をふく事すら忘れていた。

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