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106.

「後ろ気になるの?」
大島涼花が高島祐利奈の半歩後ろから声をかけた。
少し苛立ちが込められているようにも聞こえる。
高島は、ちらっちらっと後方に向けていた視線を、大島の方に向けた。
「そっちは…気にならないの?」
「別に。っていうか、アンタ今の状況わかってる?」

箱根駅伝はいよいよ終盤だ。終盤も終盤。往復200km以上…これまでに9人で繋いできた長い道のりももうあと僅かで終わる。しかも、二人が今走ってるのは先頭だ。総合優勝はもうこの2校に絞られたといってもいいだろう。

大島はこの場に及んで、遅れてしまった選手の事を気に掛ける高島が気に入らなくて仕方なかった。アンタが意識しなくちゃいけないのは、目の前にいるこの私じゃないの?

反逆児とかツッパリとか色んな風に呼ばれた。
みんな、ガキ扱い。
確かに、練習ではすぐふざけてたし、監督やOGの人たち、コーチや先輩の言う事なんて全然聞かなかった。
でも、段々と芽生えてきた「自覚」。
少し大人になった…そう自分自身感じ始めた頃だった。
走ってて楽しさを感じなくなっていったのは。

今日だってそうだ。栄京の山田を引き離したタイミング。
絶妙な判断だった。今までの自分じゃ到底考えられない。

今のチームを引っ張っているのは、どう考えても自分じゃない。
2区ではなーにゃがとんでもない走りをしたし、なっきーだって見事だった。
ずなさんだって、さややだって。

これでいいのか?
確かに、今ここで走ってるのはなっきーの戦略があってこそだ。
でも…でも…


「わかってないのは、涼花、アンタの方じゃないの?」
「は?なに?ゆーりん、言うようになったねえ?」

高島と大島は中学時代からのライバルだった。
強豪・四ツ谷大付属に進んだことから、駅伝では高島の方が目立った実績を残しているように見えたが、それはあくまでもロードでの事。トラックでの実績は間違いなく大島の方が上だった。

「わかってないって?どういうことなのよ。ねえ?」
「少なくとも、そんな詰め将棋をしてるみたいな顔をしてるアンタには負ける気はしないって事だよ。」
「詰め将棋?」
「後ろを気にしてる?そりゃそうだよ。私の相手は、みずほちゃんしかいないって思ってたからね。」
「私の事は眼中にないって事?」
「まあ、そういう事かな。」

日比谷通りを馬場先門の交差点で右折する。
残りは3kmだ。

高島はカーブを大きく曲がる遠心力を使って一気にスパートした。
大島を一歩から二歩引き離す。

「くっそう。ふざけんな!」
大島が必死の形相で追いかけてくる。
掴みかからんとする勢いで高島の横に並んだ。

そうそう。それでなきゃ。そうこなくちゃ面白くない。
涼花…ね。中学の時は、あんなに小さくてさ。
思わず小学生?って思ったくらい。
でも、一緒に走ったら速い速い。
ちっちゃな背中がどんどん小さくなってくのを見てるしか出来なかった。
でもね。走り終わったときの顔見て思ったんだ。
あのやんちゃな笑顔。私もあんな風に笑えたらいいなあって。


私、今日が最後なんだ。
もちろん、走る事は続けるよ。市民マラソンとかにも出ちゃうつもり。
でも…こんな風に、すべてを賭けて…
自分だけじゃなく、みんなの想いとか色んなものを受けて走るなんて一生ないと思う。津波のように押し寄せる大声援。絶対に負けたくないって必死の顔で一歩先を競うライバル。襷の重さ、絆の強さ。
もう二度と、私は感じる事はない。


だからこそ、最後の最後は、最高の相手と競い合いたい。
みずほちゃんも一緒だったら、それが一番良かったんだけど、それは仕方ない。
ね、私、勘違いなんてしてないよ。ちゃんと、今最も危険な相手が誰かってわかってる。でも、私が勝ちたいのはモヤモヤしながら走ってる大島涼花なんかじゃない。
全てを出し切って完全燃焼できる、最高に手ごわい大島涼花なんだ。


さ、行くよ。
最高のステージだ。
ほら、あんなにたくさんの人が手を振っている。
声を枯らして応援してくれてる。

パレードみたいじゃない?
二人だけのパレード。
手と手を取り合ってって訳にはいかないけど。

最高の花道だよ。
ね?


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