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68.

6区、20.8kmはある意味5区よりも過酷な区間だ。
序盤の5kmは5区のラストで駆け下りてきた急坂を逆に登っていかなくてはならない。
5キロは決して短い距離ではない。ここで思わぬ遅れをとったランナーが得意の下りで焦りのあまりペースをつかめずに終わるのはよくある事だ。

そして、標高差840mを一気に下る「山下り」。
トップスピードの選手は100mを16秒台という速さに達する。
九十九折のカーブを最短コースで駆けていく為には、テクニックも、そして勇気も求められる。路面から突き上げてくる衝撃は通常時の5倍に達するともいわれる。文字通り「タフネス」さが必要な区間だ。

復路は近年稀に見る僅差で選手がスタートしていった。
まず先頭で往路優勝の栄京女子の熊崎晴香が。5秒遅れで四ツ谷大の込山榛香。
スタートして100mするとコースはすぐに左へ直角にカーブを切る。
国道1号線の本線でのレースのスタートだ。
熊崎と込山はすぐに併走する形をとった。ともに1年生。初めての箱根。
手探り状態でのスタートだ。お互いのポジションをまるで打ち合わせでもするように何度か顔を見合わせた。センターライン寄りに込山、歩道寄りに熊崎がポジションを取った。

トップから1分1秒遅れで聖ヴィーナスの内山奈月がスタート。更にそこから1分半置いて今朝エントリー変更された乃木坂の齋藤明日香、10秒後に秋英の田北香世子が飛び出して行く。熊崎がスタートして3分弱。博多大の本村碧唯がスタートすると、芦ノ湖にはちょっとした静寂が訪れた。後続のスタートには少々間がある。20校の参加中5校はトップから10分以上の差を往路でつけられている。トップのスタートから10分後の一斉スタートだ。

その中でせわしそうに体を動かす一際小柄な選手が現れた。肩からはオレンジと白のストライプ、繰上げスタート用の襷がかかっている。
「君、君。復路は自校の襷を使って構わんよ?それは、こちらに渡しなさい。」
「あの…これで走ることはルール上問題ないって聞いたんですけど…」
「それは構わないが、そうは言っても自分のとこの襷で普通は走りたいもんじゃないのかな?」
「あ…すみません、もうスタートなので…」
陸連の役員に声をかけられていた坂口渚沙がスタートラインに駆けていった。

伝統の襷で何で走らないんだ?
これ以上恥を晒して何がうれしいっていうんだ?
色んな人がそう言ってるみたいだ。
それを全部、横山さんと島田さんがシャットアウトしてくれた。

この襷で走る…そう決めたのは、私たちだ。
真子さんが言った。伝統って今の私達に言われてもピンとこない。
でも、走ってみてわかった。この襷には今の私達にとって大切な何かが詰まっている。
だから…襷の色は違っても、私たちはこの襷をゴールの大手町まで運びたい。

「スタート1分前!」
同時繰上げスタートの召集がかかった。
坂口はその真ん中に位置を取った。しゃしゃり出たわけではない。
周りが自然に場所を譲ったような形だ。
実質の区間賞3つ。往路の圧倒的な走りは、慶育のただならぬ底力を誇示していた。


一斉スタートの選手が呼ばれた頃、先頭は早くも最初の登りの半分を過ぎようとしていた。
二人は明らかに隣を意識していた。元々は双方とも慎重なタイプではない。しかし、往路の波乱に富んだ展開が二人から思いっきりの良さを奪ってしまっていた。消極的になってはダメだ…背後の監督車からのそんな声がかかる。しかし…箱根山中の空気は重かった。二人に目に見えないプレッシャーとなってのしかかっていく。

そんな中、一人最初から全開でレースに入っていたのが3番手でスタートした聖ヴィーナスの内山だ。細身の体が弾けるようにして前へ進んでいく。まるで5区を任されたクライマーのような軽やかさだ。あっという間に前との差が詰まる。

出た出た。コレがなっきー本来の姿なんだよね。難しい顔で理論的な戦略を立てる「策士」としての顔もそりゃ頼もしいけど、こっちの方が百倍イキイキしてる。あのうれしそうな顔はどうなのよ?知ってるんだからね。スタート前須田亜香里に声かけられてたの。監督の私より、スター選手の励ましの方が効果あるって?まったく…
監督車の倉持明日香は腕組をしたまま柔らかな笑みを浮かべていた。
今のあの子に私が語ることは…何もない。好きに行け…そう笑っていてあげるだけでいい。

国道1号の最高点を過ぎて下りに入った。。ここでいったん短い登りを経たあと、後は一気の下りだ。ここで内山は前の三人に追いついた。そして一気に前へ出る。

抜く瞬間、内山は二人の間を割るようにした。両肩が二人に軽く触れる。
「へー…聞いてたとおり、強気な子だねえ。内山奈月かあ…いいねえ。私好きですよ。あんな子。」
監督車には複数の学校の監督が乗り込むことが常だ。その時々の順位や状況で何度か途中で乗り換えたりを繰り返す。今は1位の栄京・松井玲奈、2位四ツ谷大の峰岸、そして聖ヴィーナスの倉持が同乗者になっている。倉持に話しかけたのは助手席に座ってる玲奈だ。倉持はバックミラーに笑顔だけを返す。
「なんでウチに来なかったんだろ?真子といいこの子といい…」
峰岸もペットボトルの水を口に運びながら笑う。まだ序盤だ。焦る時間じゃない。
監督同士の間にもまだ穏やかな空気があった。

そんな監督車内の空気も、そして走ってる三人の空気をもぴりっとさせる行動を内山が見せた。
前に出ると、熊崎と込山の方を見ておいでおいでをするかのような手振りをして微笑んだのだ。

「なに、あれ?挑発してるの?」
「倉持さん…聖ヴィーナスはお嬢様学校で名を売ってるんでしょ?あんな事していいの?」
玲奈も峯岸も腰を浮かした。笑顔は浮かべたままだが、明らかに顔を赤くしている。
まったく同時に拡声器のスイッチを入れた。
「くまああああ!ナメた真似させてんじゃねーよ。ペースアップだ!目にもの見せてやりな!」
「こみ。大人しいフリはもういい。アンタのクレイジーっぷり思う存分はっちゃっけちゃっていいから!いけー!」
一流のアスリートは闘争心も人一倍だ。現役を引退して指導者になっても、そう簡単に丸くなることなんてない。倉持は思わず肩をすくめた。
まったく…わざわざ寝た子を起こすような事なんかしなくていいのに…

内山が挑発的な行動を取ったのには訳があった。

この6区…私は人生を賭けて下る。そう決めた。
「私を超えてみせて。」
須田さんがそう言った。
正直、私はまだその言葉の意味をつかめないでいる。
でも…須田さんがその後に言った言葉を私は聞き逃さなかった。

「熊ちゃん…あと、込山ちゃんかあ。面白そうな三人だね。」

考えてみたら、私たち三人って良く似てるのかもしれない。
感じるんだ。同じニオイがするっていうか…
何度かしか走ってるのを見た事なけど、そのときは…二人とも全力で髪を振り乱して走ってた。そして、何とも言えない表情をしていた。私も同じような顔をする事がある。
ほら…登りに入った。観衆が増えてくる。声援が大きくなってくる。
それにつれ、力がわいてくる。きっと、二人も同じでしょ?顔が輝いてるもん。

ひょっとしたら…
この子たちも?この子達も、須田さんに憧れて?

面白い。須田さん…あなたを超える前に…
この子達と決着つけなきゃ…って事ですよね?

いいよ、行こうか。
「山の妖精」
その名を継ぐのは誰かって事を、今…この場で決めましょ。


更新 | Home | お返事

Comment

お疲れ様です、

更新の時間が深夜になっていたりします、大丈夫ですか?

読む側としては、嬉しいですがね。(笑)

須田さんの表現のしかた、よくわかります。他のメンバーもそうなんでしょうが、今回は特に、自分の五感で感じたことがリンクしてました。素晴らしいです。

引き続き、楽しみにしてますね。

2014.10.27 (Mon) | 531 #- | URL | Edit

No title

531さん

こんばんは。コメントありがとうございます。
夜中の更新、確かに多いですねw
体調の事なら大丈夫ですよ。今は月イチの通院と検査入院だけですので。数年はこれを続けないといけないのですが、一時期の事を思えば平和なものです(#^.^#)

夜中に更新するときがあるのは、正直生活リズムがバラバラになっているって事もあります。実は所謂サラリーと受け取る生活から離れまして。身体の事などもあるので、今は自宅に事務所を構えて仕事をしております。

だからといって生活は規則的にしないといけないんですけどねw

あかりんはどうしても6区のエピソードを書くのに必要だったので出てきてもらいました(#^.^#)

これからもよろしくお願いしますね~

2014.10.27 (Mon) | 四谷 #mQop/nM. | URL | Edit

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