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53.

私はきっと思い上がってたんだろうな。私が結果を出さなきゃチームは勝てない…なんて。
今まであの日の事を振り返るなんてなかった。一度もだ。
夢には何回も何回も出てくる。都大路の事。毎回違ったアングル。
時には上空を舞う鳥が見下ろすような視点で。
時にはテレビ中継のカメラを持った報道陣の視点で。
そして時にはチームメイトの視点で。

お前が走るのをやめたからだ。
お前さえしっかりしていれば。
私たちの夢をつぶしやがって…

目が覚めるとほっとした。
そして周りを見渡す。合宿所の部屋は殺風景だった。
一人でいる事を実感した。
そして、それが小嶋に寂しさと、妙な安心感を与えていた。

「真子。萌咲を見たか?」
「はい。見ました。」
「お前なら、今あの子にどんな声をかける?」
「…わかりません。でも…」
「でも?」
「またこの大会が終わったら、普通に一緒に走ってると思います。」
「アイツ、責任感じて辞めちゃうかもよ?結構、あれでいて気が弱いトコあるからね。」
「島田さん。何言ってるんですか。そんな事、絶対にさせないくせに。」
「はっはっはっははは。なあ、真子。そんなモンなんじゃないか?」

島田はそこまで言うと、小嶋の背中をばんっと一つ叩いた。
ちょ…ちょっとレース前ですよ。そんな強く叩かなくても…

そうだよね。私はバカだった。何も見えていなかった。
あの時、いったい誰が私を責めたって言うんだろう。
途中棄権の後…悔しかったに違いない。最後の冬だ。全国制覇を果たすという目標だけの為に1年間、苦しい練習にも耐えてきた。それが叶わなかった悔しさを私は一人で引き受けているつもりになっていた。
奈々が…未姫が怒っていたのは、私が棄権したからじゃない。
その悔しさを分け合おうとしなかった事に怒っていたんだ。

私たちはチームメイトであり親友だった。
戦友って言ってもいいかもしれない。

だから…今日、私はあの襷を最後まで運ぶ。もちろん、それは慶育の為だ。
共に苦楽を味わってきた大切な仲間の為だ。
でも…きっと、あの襷には、もっと色んなものが宿ってるような気がする。
それが何か。今日、走れば私がはその事に気付けるのかもしれない。


「西野です。三者一歩も譲らないデットヒート。最後の最後に飛び出したのは、四ツ谷大の西野未姫。この強烈な風の中、見事な走りを見せました。大きく襷を差し上げました。5区には岡田奈々。四ツ谷大は、今年も山で切り札を切ってきました。そして…そのすぐ後ろ。おーーーっと並んだ。並んだ。ここで二人が並んだ。博多大の秋吉優花、そして栄京女子大の市野成美も食い下がる。秒差だ。秒差の襷リレー。まずは、四ツ谷大。そして…ほぼ同時に栄京、博多。栄京は1年生の惣田。博多大は2年連続の山登り、朝長が箱根に向かいます。近年にない程の僅差の勝負。さあ、いよいよ、箱根駅伝、往路優勝の行方は…今年も山で決します!」


「未姫。ナイスラン。」
「ま…真子?あ…ありがと。」
全てを出し尽くして立ち上がれない西野の隣に小嶋が腰を下ろした。
久しぶりに見た小嶋の笑顔だ。西野は、疲労困憊の顔の中に無邪気な笑顔を浮かべた。
「奈々に挑戦状叩きつけちゃった。」
小嶋が舌をぺろっと出して笑う。本当に久しぶりだ。こんな風に笑う小嶋を見るのは。
西野がその場に立ち上がった。まだ息が弾んでいる。それを落ち着かせるようにペットボトルの水を口に運ぼうとするが、上手く喉に流し込む事ができない。
「もう、未姫ってば。そんなトコ、全然変わってない。」

「ねえ。挑戦状って?」
「うん。芦ノ湖でトップ争いしょうって。そんで、最後は私が勝つからねって。」
「まじで言ってる?私フィニッシュしてからずいぶん経つよ?それなのに、こんなトコでのんびり話してる真子が?」
「おかしいかな?」

いや…おかしくはない。
私は真子の怖さを誰よりも知っている。だからこそ、味方でいる時に甘え過ぎてたんだ。
あの時…もっと怒れば良かったんだ。アンタ一人でやってるんじゃない。調子悪いならペース落とせって。
区間新なんていらない。トップじゃなくたっていい。普通に走れば、あとは私たちが何とかしたのにって。
でも、言えなかった。それだけ、私たちは真子に頼り切っていたんだ…

「悪いけど、ウチのエースはそんな簡単じゃないよ?」
「わかってる。でも…今なら、私なんでも出来るような気がするんだ。」
「ん?呼ばれてるよ。7分半か。もし…本当に追いついたりしたら…」
「したら?」

伝説になるよ。
そう言いかけて、西野は言葉をひっこめた。
敵に塩を送るような言葉は今は言うべきではない。

「賭けようか?私は絶対無理なほうに。」
「じゃ、私は逆転できるほうに。もし、私が勝ったら?」
「掛け金は払うよ。1000円あげる。」
「よっし。その言葉忘れんなよ?」

「慶育が来ました!13番目まで順位と…いえ、13番目までポジションを上げた横山結衣。トップとのタイム差は7分25…26・・・やや離されました。2区3区と勢いに乗った慶育大学。ここでやや勢いを落としたか。5区は小嶋真子。慶育の意地をかけて…小嶋が山を登ります。」

勢いを落とした?
何を言ってるんだ、あのアナウンサーは。この条件の中、何にも守られず吹きっさらしの向かい風の中、この差を守ってくる事がどれだけ大変な事かわかってないのか?
見せつけてあげる。慶育の勢いは落ちてなんかないって事を。

結衣。見事だ。見事だよ。
アンタのその粘り…絶対に無駄になんかしない。


小田原中継所  通過順位 (○数字は個人区間順位)


                          トップとの差
1位  四ツ谷大学    西野未姫①       -
2位  博多大学     秋吉優花②       +0:04
3位  栄京女子大学  市野成美④       +0:05
4位  乃木坂大学    堀未央奈③       +1:51
5位  聖ヴィーナス大学 梅田綾乃⑥      +2:58
(13番目) 慶育大学  横山結衣         +7:31
13位 秋英学園大学   達家真姫宝⑤     +7:38


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