スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

47.

ふざけんなよ。

正直、おもしろくない。
確かにウチの力が落ちてる事なんて知ってる。
むしろ、だから私は慶育への進学を決めたんだ。
特待生なんかじゃない。まあ、頭は悪かったから、到底普通の入試なんかじゃ無理だから、一芸試験だけど。
それでも、入学して練習に参加して思った。なんだ、このダレきった連中は?
先輩達を見てても、胸をときめかせてくれるものは何もなかった。

だから、自分の力でこのチームを強くしてみせる。
必死に走った。故障したのも一度や二度じゃない。
箱根でも毎年区間上位の成績を残した。でも…私が決して評価される事はなかった。
シード落ちするまで弱くなったかつての名門校に当たるスポットライトは極めて細いものだった。

そして、最後の箱根…

田野優花は特別な思いを持って、レースに臨もうとしていた。
しかし、エントリーは3区。
当然2区を走るものと思っていた。チームのエースとして。
2区じゃなければ5区。でも、事前に山登りのトレーニングを命じられる事がなかったので、2区だと。
だが、本番当日2区に指名されたのは、この間まで名前すら知らなかった通信課程の1年生。
5区だってまったく経験もなく、不振を極めていた小嶋真子がエントリーされた。

「田野ちゃん。また見えたで。4人目や。あと1人、すぐその前にもおる。まだまだいけるやろ?」
監督車から声がかかる。田野が軽く手を上げ、その声に応えた。

あー。気持ちいいわ。
昨日までウジウジタラタラ文句言ってたのが、本当に情けない。
2区だ5区だエースだなんだって。
だいたい、私がエースを語れる力があるのかって。
島田さんも、キツい事してくれるわ。思い知らされたわよ、ほんと。

萌きゅんがあんな事になっちゃって…
私がもし2区だったら、あの後にあんな走りなんて絶対にできなかった。
気持ち切れちゃって、もういいや…ってなってる。
それが何?区間新?いくらそんな記録出したって、参考記録なんだよ?
何の名誉だって得られない。それなのに…

わかってたんだ。私はチームを背負って悲壮感持って走ってちゃダメなんだ。
好きなように走れ。
島田さんにずっと言われてたけど、やっとその意味がわかったわ。
エースじゃなくたっていい。でも、私にはちゃんとやれる事があるんだ。

慶育の快進撃は3区に入っても止まらなかった。
序盤で2人を抜き、中継所では2分近く差のあった、更に前の2人をかわした。
平塚の中継所が見える。
その前に…あと一人。あと一人なら抜けるだろう。
前を行く選手…フラフラだ。風に煽られて蛇行しちゃってる。
よし…あの紺のウエアの…ピンクの襷の…

え?あれは…?
秋英?

田野は自分の目を疑った。
確か…2区でちょっと遅れたって情報は耳に入っている。
でも、戸塚ではウチと3分以上の差があったはず。
他のガッコはともかく、秋英…確か4年生の小嶋菜月が走ってるはず。
あの子との差がこんなに簡単に縮まるはずがない。

田野はラストスパートというより、ダッシュをかけた。
前傾姿勢を強め、風にあがらうようにして前へ足を運ぶ。
小さな身体に似合わないダイナミックなフォームだ。

中継所まで100メートルの所で小嶋菜月を抜いた。
というより、小嶋はほとんど止まっていた。監督車から降りた高橋みなみが下を向いて歩く小嶋の顔を覗き込んでいる。

秋英もか…
気温は20℃を超えていた。強い南風と太陽の日差しが体感温度を上昇させるだけでなく、容赦なくランナーから体力と水分を奪っていく。
あの感じだと、中継所まではたどり着けるだろう。
だけど…完全にシード圏外に秋英が落ちた…

「平塚中継所、15番目に入ってくるのは慶育大学。田野優花。2区に続き、見事な走りです。田野から横山へ。4年生から1年生。繰り上げの襷ですが、しかりと…しっかりと繋がりました。田野の記録は…これも素晴らしい。先ほどトップで襷を繋いだ区間賞の栄京・江籠の記録を4秒上回りました。田野優花…幻の区間賞ですが…これは立派な記録です。」

フィニッシュした田野は、横山結衣の背中を軽く叩いて送り出すと、今来た方を振り返った。
よろけるようにして、秋英の小嶋菜月がピンクの襷を達家真姫宝に繋いだ。
同じく4年生から1年生への襷リレーだ。小嶋は気を失ったように、その場に倒れこんだ。

アナウンサーが絶叫しているのが、沿道でポータブルテレビを見ていた観客の方から聞こえてくる。
かつての名門、秋英と慶育にとって、今大会はまさに悪夢となった…と。

ふぅ…悪夢か…
悪夢かどうかまだわからない。
だから駅伝は面白いんじゃないか。


田野がゆっくりとその場を離れた。
秋英の小嶋には何も声をかけなかった。
今は、どんな言葉で健闘をたたえ合うかなんてわからない。

でも、いつか語り合う事もあるだろう。
同じ道を走った同志として。


平塚中継所  通過順位 (丸数字は個人区間順位)

                            トップとの差
1位 栄京女子大学   江籠裕奈①         -
2位 博多大学      宮脇咲良②         +0:41
3位 四ツ谷大学     大森美優③         +2:05
4位 乃木坂大学     生田絵梨花④       +2:21
5位 聖ヴィーナス大学  橋本耀⑨          +2:49
(15番目)  慶育大学   田野優花-         +5:32
16位 秋英大学      小嶋菜月⑲         +6:18


48. | Home | 46.

Comment

Post comment

Secret

Page top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。