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20.

秋晴れの空に真っ白な鳩が舞った。
荘厳なカトリック教会への階段。その中断の踊り場で新郎新婦が放った鳩だ。

あの鳩飛ばすだけで2万も取られるんだよな…
しかし、あの鳩たち稼ぎいいよな。ちゃんと教会の周りを旋回して、あとは巣箱に戻るだけ。
それで2万だよ?
はあ…俺の給料なんてなあ…

しかし…なんで、俺、こんなトコいるんだよ?
なにがどうなっていったいこうなってるんだよ…誰か教えてくれよ。

妊娠7か月?だから、ウエディングドレスをオーダーしなくちゃお腹が目立っちゃう?
違うだろ?コドモなんかいなくたって、どっちにしたって、お前既製品なんか絶対着れないじゃないか…

はあ…

「おめでとうございます!芝さん。」
「おお…玲奈か。来てくれたのか。てっきり…」
「もう、何言ってるんですか。もう怒ってなんかないですよ。それに、わかってますから。あのおじいさんを連れてきたのは、芝さんのせいじゃないって事なんて。ほら、あっちにみんな来てますよ。珠理奈も久美も。」
「ああ…あの…それでさ…俺、もう芝じゃないんだよ。」
「あ、そうか。そうでしたね。奥様の名字になったんですよね。茅野さん。」

玲奈が真っ白なウエディングドレス姿の新婦を見て笑った。

「あら。松井…玲奈さん。主人からよく話は聞いていますわ。私…」
「ええ、私こそ、よく存じてますわ。四ツ谷大付属高校陸上部の名将、茅野しのぶさんですよね。お会いできて光栄です。」
「ありがとう。この後の披露宴も楽しんでいってね。ほら、今日は私の教え子たちも来てくれてるから。」

茅野が指示した方には、一目でそれと分かる体育会系の集団がいた。
華やかなドレスに身を包んでいるが、アスリート特有の雰囲気がある。
それに、そこにいるのは大学トップクラスのアスリート揃いだ。
玲奈が率いる栄京大にとって、最大のライバルである四ツ谷大の選手たちが殆どだった。

何度か面識もあるし、話し込んだ事がある選手も何人かいる。
しかし、玲奈はその場では軽く会釈をするだけにとどめた。
避けたわけではない。彼女たちの間に、何か微妙な空気を感じたからだ。

その微妙な空気は、披露宴が始まっても続いていた。
披露宴では、招待客がいくつかの円卓に分けられて着席する。茅野家側の招待客として出席している、四ツ谷大付属の卒業生たちは学年ごとのテーブルだ。一つのテーブルに、現在大学2年生のメンバーが固まっていた。
四ツ谷大に進んだ、岡田奈々、西野未姫、前田美月。恵育大を選んだ小嶋真子。内山奈月、橋本耀は聖ヴィーナス大への道を選択した。

「なになに?なんか、みんな暗くない?どした?久しぶりに会ったんでしょー?」
隣のテーブルにいた、岩立沙穂が明るい声で話しかけてきた。
「いいじゃない。そりゃ、箱根直前でライバル同士って言ったって、同窓でしょ?今日くらいはね。ね?」
「そーだよ。こっちのテーブルなんか、もー大変。あ、ねえちょっとゆーりん。ダメだって、内情を暴露するような事しちゃ。」
「いや…全然大した事聞いてないし。ただ、ウチの今年の5区は…あ…危ない危ない。大丈夫だって、なっきー。そんな怖い顔しなくたって、ばらさないからさ。」
村山彩希の明るい笑い声は高校時代から変わらない。大島涼花のいたすらっこい笑顔もだ。みんな、少しずつ大人っぽくなってるけど、こうして集まれば昔のままだ。仲のいい先輩後輩…そのまま。

ただ…涼花の冗談に一瞬だけ表情を緩めた内山奈月の顔からすぐに笑顔が消えた。
隣の橋本と小声で会話を続ける。

「まったく…いつまで引きずってるんだか…」
「そうよね…でも、あの子たちが自分で気づかなきゃ…本当の解決にならないもんね。」
鴨のローストにナイフを入れながら、茂木忍が岡田彩花と節目がちに話す。
「真子…あの子、予選会でもボロボロだったんでしょ?」
高島佑利奈もその会話に入ってきた。
「高島…アンタもね。私たちは…走る事でしか、何も解決できないんだよ。早く、アンタも…」
「わかってるって。大丈夫。私は大丈夫。むしろ、楽しみで仕方ないんだ。今は…ね。」

高島は広い披露宴会場の新郎側に並んだ姿を見やって言った。

「なっきー…どう?聖ヴィーナスは?」
「どうって?楽しいよ。すっごく。先輩たちもいい人ばかりだし。私には合ってるかな。」
「そっかあ。うん。良かった。」
遠慮がちに小嶋が内山に話しかけた。
「ねえ…真子。今まで何度も言ってるけど、私が四ツ谷大に進まなかったのは、別に変な意味でじゃないからね?」
「まだ、そんな事言ってるの?」
橋本も隣でパンをかじりながら呆れたような口調でつぶやく。
「ぴかってば…あのさ…」
「じゃあ、なんで真子はウチに来なかったの?」
内山の言葉を遮るように、西野が会話に割りこんできた。
ちょっと怒ったような顔だ。
「それは…」

「それは、真子なりの考えがあっての事なんでしょ?」
西野が小嶋の返事に何かを言い返そうとするのを、今度は奈々が遮った。
西野とは違う。特に興味もない…そんな顔つきに見える。
「とにかく…私たちは、今はライバル…いや。そんななまっちょろい言葉じゃないよね。敵…でしょ?みんな、それぞれ自分で決めて進んだ道なんだ。誰がどうとかじゃない。未姫、何度も言ってるじゃない。私たちは、もういつまでも高校のチームメイトなんかじゃないって。」
「そうだけどさ…」

「あ。呼ばれてるよ。歌…歌うんでしょ?」
岩立がデザートのケーキをほおばったまま立ち上がった。
「え?もうそんな順番?やべ。何も心の準備してなかった。」
篠崎彩奈がテーブルの下から大きな包みを引き出しながら慌てている。
「えっと、みんなそれぞれ自分のプラカード持って。間違えないでね。」
包みを解いて冷静に配っているのは、北澤早紀だ。
相笠萌がそれを手伝っている。

「それでは、新婦の教え子さんたちの歌です。さあ、新婦もこちらへ。用意がよろしければお願いします。」

「えっと…それでは…イケメンの旦那さんを無理やりものにした、先生のお手柄をお祝いして歌います。聴いてください!心のプラカード!」
「無理やりは余計よ。」

会場は爆笑に包まれた。
その後列に並んだ、小嶋は複雑な想いを笑顔で隠していた。


心のプラカードか…
本当の気持ち。口で言えないなら書いてみようよ…か・

私は、彼女たちに…大切な友達になんて気持ちを書けばいいんだろう?



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