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17.

「島田。どういう事や?」
「まあ、いいから。見てなって。なかなか面白いよ。」
トラックに駆け下りてきた横山が息を切らしながら島田の横に立った。
あの三人はいったいどこの誰だ?
いったい、どういうつもりでこの練習を?

問い詰めたい事は幾らでもあった。
でも…確かに、島田の言うとおりだ。
目の前で繰り広げられている「レース」は確かに興味深いものがある。
三人を追う、ウチの選手達。
田野のこんちくしょうって顔もそうだし、真子の何か楽しそうな顔もそうだ。これ以上遅れてたまるか…1年生の面々にも引き締まった表情…いや、必死の形相があった。

「魂の襷」
かつて、慶育大学の駅伝を称してそんな言葉があった。
大島優子という大エースを擁していた時期、やはり前田敦子というエースを擁した秋英大と幾度となく激闘を繰り返していた。しかし、総合力という意味では秋英に遠く及ぶものではなかった。そんな慶育にとって何よりの武器は団結力であり、個人個人の襷を少しでも速く、そうそれがたった1秒であったとしても…次へ繋ぐ執念に似た意思であった。

名門と呼ばれるようになった事が、いつの間にかその執念を奪い去ってしまったのか。いつの間にか選手の顔から必死さが消えていた。慶育のフラッシュグリーンを身に纏うだけで、あたかも自らが勝手に高いポジションにあるかのように。

今、横山の目の前で見せている選手達の顔は、まさにかつて自分達が持っていたものだ。必死な顔つきは精悍さを産み、熱を産む。
島田は、いったいあの三人を使って、どんな魔法をかけたのだ?


「どう?あの三人。面白いでしょ?」
「うん。今先頭を走ってる一番小さい子。誰かに似てる。えっと…そっか。小さな身体でチョコチョコしてるけど、キレもあるし、動きも大きい。もう少し身長が伸びたら、四ツ谷大の木崎っぽくなるかもしれんなあ。」
「へえ。さすが、由依。良く見てるじゃん。そっか、そこまで伸びるかね。木崎ゆりあって言ったら、今シーズン、学生トップの記録持ってる実力者だよ。」
「まあね…。それから、もう一人の小柄な子…まだまだ無駄な動きが多いけど、躍動感が半端ないね。あれも…そうやなあ。あの子も四ツ谷大だったっけ?真子と同級生の。西野って子。あの子に重なるわ。後ろ姿だけ見たらあれが西野未姫って言われても疑わへんと思うわ。」

三人が引っ張る集団が再び、横山と島田の前を通過した。
いつの間にか、後ろが追いつき大きな集団になっている。
ペースが落ちたわけではない。逆にこの1周のラップは上がってきた。
三人の中で一番長身の選手がするするっと先頭に上がっていく。

「あの子は?真子そっくりやんか。たぶん、後ろ走っとる真子も気づいとると思うで。…ああーそうか。そうなんか。前からずっと思っとったんや。そうかあ…」
「なに?由依?ワタシの顔になんかついてる?」
「ちゃうわ。似てると自分で思わんの?」
「似てるって?」
横山が何か思い出し笑いをしたするような顔になった。
遠い昔…小学生の頃の夏休みの思い出を語るような顔。

「アンタだよ。島田。アンタの走り方にそっくりなんだよ。」
「は?ワタシ?」

そう。

島田とは一緒の区間を走った事が一度も無かった。
3年の時に大島・指原と伝説に残るデットヒートを繰り広げた翌年、島田は5区の区間賞を取り、一躍有名ランナーとして名乗りを上げた。8区や3区を主戦場としていた横山がその姿を実際にその目にする機会は無かったわけだ。
それでも、島田の走りは横山の胸に強い印象を残した。
何よりも、あの優子先輩がその走りを最大限に評価した事。決してタイム的には飛びぬけたものを持っていない島田がなぜトップランナーとして称されるようになったのか。同じ年、タイプ的にも同じようなランナーだと思った横山は島田に強い関心を持った。
何度も何度も島田の走りをVTRで見た。だからこそわかった。
たぶん、私は島田よりも島田の走りの事を知っている。

「あの、強引なストライド。抜いていくときのどや顔。わがままそうな手の振り方。足音までアンタそっくりだよ。」
「いや…そりゃそうだけど…真子まで?いや、真子はワタシよりむしろ…」

前田敦子さんに似てるよね。
指原が言ってた言葉を島田は思い出していた。
うーん…って事は、ワタシが前田さんに似てるって事?
いやいや…それはない。
島田は下を向いて苦笑した。

「ほら!ラスト1周!真子!田野ちゃん。意地でも前に出てみなよ。このままじゃいいトコなしだよ!渚沙も、いくみんも。絶対譲るな!いいな!」
島田が大きな声をかける。
ずっと前を引っ張っていたうち、一人が集団の中盤まで下がり始めていた。
「よっこやま!よこやまゆい!何やってんだ?ここで終わりか?そんなんじゃねーだろ?」

一段と大声になった島田が、自分の名前を叫んだと思って、思わず横山は背筋をびくと伸ばした。
「ああ。悪い悪い。あの子も、ゆいっていうんだよ。横山結衣。」

「そうなんだ?びっくりしたわ、ホンマ。で?あの子達は?どこの学校の子?高校生とか?」
「いや…れっきとしたウチの学生だよ。」
「ウチのって?慶育の?」
「そう。慶育大学八王子キャンパス。通信課程に在籍してる1年生さ。」
「八王子?あの、年に何回か通学して後は通信講座で単位を取るっていう?ハチキャンの?そのハチキャンにあんな走れる子がいたっていうんか?」


タイムトライアルのゴールを先頭で切ったのは、渚沙と呼ばれていた子だった。続いていくみん…島田がそう呼んでいた子。横山結衣も田野と小嶋と並ぶようにしてフィニッシュした。

「アンタ達…何者?」
田野が乱れた息のまま三人に声をかける。
突然現れた強敵を歓迎するかのように、汗に濡れたその顔には満面の笑顔があった。


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