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13.

時間通りにロード「レース」がスタートした。
まずはAグループ。2分遅れでBグループがスタートする。更にその2分後がCグループのスタートだ。
Aには、箱根本戦のレギュラー候補がずらりと顔を揃える。
1年生や控え組の多いBが後ろから追いつく事は考えられない。
郊外とはいえ公道だ。さすがに大集団でランナーが走っているのは危険極まりない。

目の前に筑波山がそびえている。序盤の6キロはその周辺を巡るように細かいアップダウンのあるコースを走る。その後は登りだ。約3キロ。箱根6区とは比べようもないが、それなりに登りの適正を試される「山道」を登る。峠に向かう中腹のレストハウスで折り返してそのまま3キロを下る。残りは3キロ。コンビニの広い駐車場がゴールになる。
Cコースは、中腹で折り返さず峠のてっぺんまで一気に上る。6区や8区。登りに特化した区間へのエントリーを考えている選手はこのグループに割り当てている。ただ、近年の5区は実質「エース区間」ともされている。Aグループの中から5区に配置される事も決して少なくない。



スタートしてすぐに秋元と山田が飛び出した。
またいつもの事だから…そんな反応で秋元のスタートダッシュを見送った乃木坂のメンバーに対し、栄京のメンバーは一瞬顔を見合わせた。
「みずほが?え?え?…ねえ?なる、アンタ玲奈さんから何か指示受けてる?」
古畑が市野成美の方を振り返って聞く。市野も、隣に並んで走ってる江籠も一瞬顔を二人で見合わせて首を振る。
「奈和ちゃん、なるも行っていい?」
「行くって…なる、今日のロードはね…」
「はーい。もーわかってるって。でもなあ…」
返事が返ってくるのを待たずに市野が笑って言う。
大丈夫か…古畑はほっと胸を撫で下ろした。
なるの気持ちはよくわかる。たぶん、みずほに飛び出せなんてオーダーは出ていないだろう。乃木坂の真夏と仲がいいという話は聞いていた。それでなくても、最近玲奈さんに集中して怒られてる姿を見ていた。きっと、みずほなりに反発心を抱えていたのかも。
でも、私たちは栄京のメンバーだ。箱根連覇を果たして、大学駅伝の女王の名を名実ともに手にする為には、自分を押し殺して走る事も必要だ…4年生が少ない中、実質的なチームリーダーを務める事になっている古畑が常に意識している事だ。

前は…もっと楽しく走れてたのにな…
そういえば、レース前、珍しくみずほが楽しそうな顔をしてたなあ…
栄京らしい走りを…よく言われる。OG会や後援会の人も二言目にはそんな風に言う。でも、いったい「栄京らしい走り」ってどんな走りなんだろう?私だって、その「栄京らしさ」に引かれてここに入ってきたはずだ。高校時代、色んな学校から誘いがあった。私はなぜ栄京を選んだんだったっけ?強豪校の一員として走ってるうちにそんな事すら忘れちゃったんだろうか…

「…和。奈和ってば!」
慌てたような二村の声にはっと我に返った。古畑が前に目をやると、数人の選手が数メートル先に出ている。明らかにペースが違う。スパートをかけたというより、その集団がギアを入れ替えたって感じだ。試合ではないので揃いのユニフォームを着てる訳ではないが、それが乃木坂の面々だという事はすぐにわかった。
手元のGPS付ガーミンが既にスタートして3キロ過ぎまで来ている事を示している。アップダウンがあるとはいえ、比較的フラットな部分だ。あと3キロ弱で登りが始まる。
「上がるよ。いい?」
「指示、おせーよ。しゃきっとしてもらわないと。頼むよ、リーダー。」
厳しい顔で、古畑の背中をぽんと一つ叩いて、宮前が前に出た。大きなストライドでペースを上げていく。あっという間に前の集団に追いついた。

「生田さん。もう少しペース上げますか?きつかったら、ワタシが引きますけど?」
先頭を走っていた生田絵梨花の横に並んで、宮前が不適な笑みを見せる。生田は一瞬宮前の方を向くが、そのまま表情を変えずに走り続けた。
「ホントに…なんか、いけ好かない子だわ…」
「ちょ…杏実ってば。聞こえるよ?」
「いいの。奈和、ワタシは…」
「聞こえるように言ったんでしょ?」
宮前が答える前に、すぐ後ろから声がかかった。
「うん、そう。よくわかってるじゃん?」
後ろを振り向く事はしなかった。声の主はすぐにわかったから。
「おもしれー。それでなきゃ。さすがはロック娘だよね。」
「そういうアンタは?まだ、ばかつきらしい馬鹿っぷり見せてねーじゃん」
「慌てないの。ほら、アンタの得意な登りが始まるよ?引くんでしょ?きついならいつでも代わってあげるよ?」
若月祐美が不敵な笑みを浮かべている。

二人のやり取りを聞きながら、古畑は思わず噴出しそうになった。
やっぱり、走ってるときはいい。私たちはランナーだ。アスリートだ。確かに戦略やチームオーダーは大切だ。でも、こうして本能のまま走ってる時ってのは、最高に面白い。

山道に入った。九十九折のカーブが続く。時々、先を行く真夏とみずほが見えなくなる。そろそろ、エンジンかけなきゃ…な。

集団が緊張感を共有した。
これは、ただの「練習」じゃない。

そう…「レース」だ。



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