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12.

お嬢様学校として知られている乃木坂大だが、実は運動系の部活動が盛んである事は世間では認知されていない。
なぎなた部は全国制覇を何度も経験しているし、先日のオリンピックで団体のメダルを獲得したフェンシングのメンバーのうち2名は同校の卒業生だ。そのほか、合気道や弓道など全国クラスの部活動もある。

しかし、その中で駅伝部は特異な存在と言われていた。乃木坂大に進む子といえば、多くは付属校からのエスカレータ。名家旧家の育ちの良いお嬢様が多く、スポーツも幼少からの嗜みとしての延長といった要素が強かった。しかし駅伝部の部員は多くが大学からの外部入学。所謂体育会系の女子よりは若干おとなしい感じは否めないが、それでも生粋のお嬢様が多い学校のカラーとは離れた存在が殆どだ。


そんなチームカラーは指導者二人のキャラクターによるところが大きかった。部長の設楽統と監督の日村勇紀。陸上界の指導者としては若手の部類に入る二人だが、コンビでの実績には名だたるものがあり、特に新設の学校を強豪へと育成する力には定評があった。
特に設楽の戦略家としての手腕は非常に優れたもので、女子選手強化をにらみ、栄京大の松井玲奈を臨時コーチに招聘したのも彼であった。


「あれ?設楽さんも日村さんも、今日は陸連だったんじゃないですか?」
午後からはレース形式で15キロを走る。郊外まで移動するバスに乗り込もうとした玲奈は、二人の姿が現れたのを見つけて、ちょっとだけ意外そうな顔を見せた。
「ああ。いや…日村さんがね…つまらない会議だから、もういいでしょう…って言うから。」
「いや、違うよ。設楽さんが、顔だけ出して義理は立てたんだから帰ろうって。そうやって帰って行った監督さん多かったしね。」

お互いを「さん」付けで呼び合う二人だが、とにかく仲が良いところがうかがい知れる。中学生から同じチームで走り、高校から大学に進んで箱根を走った時も、4年連続で続く区間で襷を渡しあったと聞く。

「ウチのご老公は…?ま、あの人が来る訳はないですよね?」
「あ…ああ。まあ、今村さんは松井がいるから安心してるんだろ?」
「単に自分の保身が大事なだけですよ、あの人は。」

玲奈がちょっと固い表情になったのを見て、それ以上二人はその件についての会話をやめた。何事かを笑顔で会話しながらバスへと乗り込む。

バスは郊外へと伸びる高速へ入った。
幾つかのグループに分かれるとはいえ、都心にある乃木坂大の近くでロードの練習は出来ない。それに、毎年この時期のロードトレにはもう一つの目的がある。選手の「特性」を見極めるためには、フラットなトラックでは出来ない「環境」を用意する必要がある。


「じゃあ、軽くストレッチして準備して。30分後…14:30にAグループからスタートするからね。」
玲奈の号令よりも前に、選手達は到着した運動公園の広場に広がり準備を始めていた。どの顔も引き締まった表情になっている。ある者にとってはここまでの調整具合を確認するため、ある者には本番に向けたアピールのため…それぞれの思惑が絡み合っている。これはただの「練習」ではない。

「松井。ちょっといいかな?」
設楽が手元のペーパーに目線を落としながら歩み寄ってきた。何が言いたいのか玲奈には思い当たるところがある。自分もポケットから設楽と同じペーパーを取り出す。

「橋本がBグループにいるんだけど。アイツどうかしたの?調子崩したとか怪我とかって話は聞いてないんだけど。」
「いえ…昨日の夜、本人から申し出があって。何か、確かめたいことがあるから…って。」
「確かめたいこと?今日、BってAと同じコース走るんだよな?」

そうですよ。玲奈がそう言って再びペーパーに目を落とした。
持ちタイムやロードでの実績で上位にいる選手はAグループで走るのが、このロードトレの基本だ。本戦のレギュラーを決める争いになると言っても良い。この中で存在感を示す事ができなければエースといえども
本番に向け首脳陣の信頼を勝ち取る事も出来ない。

「まあ、アイツの事だから何か考えはあるんだろうけどな。ゆっくり走ってフォームのチェックでもしたいのかもしれないし。」
設楽はそう言って、トラックに入ってアップ走を続けている選手の方へ戻っていった。
「チェック…か。」
Bグループのメンバーリストを上から順に眺めていた玲奈はふと何かを思いついたように顔を上げた。橋本の姿を探す。

遠くから見ても、バランスの取れた身体で滑らかな走りの橋本の姿はすぐに見つけられた。白石や生駒、西野や高山といったいつものメンバー達と談笑しながらアップを繰り返している。

「あの子、面白いなあ。ひょっとしたら私と同じなのかな?」
玲奈が呟いた。近くにいた古畑と二村が思わずこっちを向く。

「玲奈さん…?」
「あ…ごめんごめん。こっちの話。それよりも…あんた達わかってるわね?昨日から存在感薄いんじゃないの?ウチ。少しは栄京らしいとこ…」
「わかってますよ。慣れないトラックで遠慮してただけなんで。ロードに出たらどっちが上なのかはっきりさせてやりますよ。」

わかってるのかな?
どっちが上って…

玲奈は二人の姿を眺めながら、思わずそう言いかけて言葉を引っ込めた。
まあ、いい…
あの子達にも意地やプライドがあるだろう。
やるときはやってくれるはずだ。



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