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5.

「第5位。慶育大学。」
上位で予選会を突破したとはいえ、慶育への拍手はまばらだった。
トップ通過が発表された博多大への大歓声とは対照的なものだ。
残り3キロ、島田の指示でペースを落とした慶育の選手は結局そのまま失速。後続の第2集団に飲み込まれる形でフィニッシュした。

博多大はトップでフィニッシュした朝長を始め、田島、宮脇、兒玉に続き、森保まどか、松岡菜摘までの上位6人を独占したのに対し、慶育は結局、特待生として入学していた1年生の後藤が25位に入ったのが最高で、田野も相笠も100位以内に入るのがやっとだった。小嶋に至っては大きく集団から遅れ歩くようになりながらフィニッシュにたどり着いた。
順位は、慶育の中でも下位に沈むものであった。


「5位か…」
「仕方ないよ。あそこで押さえなきゃみんな潰れてた。」
「わかってる。」
横山の口調から怒りのようなものを感じた。島田は、あえてそれに突っかかるような話し方をした。
「下手したら、予選落ちまであったんだよ?」
「だから、わかってるって。」
「だったら、何で怒ってるんだよ?」
「あん時に気づかなかったウチ自身に怒ってるんや。」
横山は唇をかみ締めた。それを見て、島田はもうそれ以上言うのをやめた。横山だって指導者としてはまだ新参なんだ。ワタシだってそうだ。結果は仕方ない。予選を通過した事を今は素直に喜ぼう。

「お疲れ様、はるぅ。由依。」
「あ、一位通過おめでとうございます。指原さん。」
昭和記念公園の広大な広場、テントの撤収を手伝っていた二人に指原が声をかけてきた。
「やめてよ。もう、さんづけって。同い年でしょ?私達って。」
「でもなあ。なんか照れますわ。」
かつて、箱根を沸かせた名ランナー同士。特に、3年の時に見せた大島優子・指原莉乃・島田晴香の3人によるデットヒートは後世に語り継がれる名勝負だった。
「由依は、そういうとこ固いんだよね。ったく。おひさしぶり、さっしー。向こうに行ってからなかなか会えないよね。」
「そうだよね。ね、どう?今日、この後。」
指原がグラスを掲げる仕草をした。
「いいねえ…って言いたいトコだけど、戻って反省会やらなきゃ。」
「そっか。残念。」
指原は笑った。もともと、誘いに乗ってくるとは思っていない。自分達だって、これからミーティングだ。今日を祝ってちゃ話にならない。本番はまだ先なんだから。

「あ、はるぅ…」
「ん?」
横山がその場から離れたのを見計らったように指原が島田に声をかけてきた。
「アンタのトコの小嶋真子…あのコ、四ツ谷大の付属でしょ?高校時代は相当走れたみたいだけど。」
「うん。そうだよ。ちょっと長いスランプ中…かな?」
「なんで、アンタんトコいるの?普通に考えれば、四ツ谷大行きでしょ?」
「ま、いろいろあってね。」
島田は言葉を濁した。特に隠すほどの事情があったわけではない。確かに四ツ谷大はエスカレータで上に進むコがほとんどとはいえ、中には他大学に進む者もいない訳ではない。小嶋がなぜそうなったのかは、島田自身もよく知らなかった。

「あのコ…似てると思うんだよね~」
「似てる?誰に?」
島田は首をひねる仕草をした。

「おーい。奈子!美久!そこで遊んでるんじゃねーよ!」
突然、指原が大声で叫んだ。
「はーい!すいませーん!」
「ったく…終わった後、遊んでる元気あるんだったら、レースで出し切れって言うんだよ…」
「あの二人か。矢吹・田中…脅威の1年生コンビね。あと…秋吉ちゃんだっけ?あの子も今日第2集団で見たよ?」
「扱いが難しいよね。いまどきのコって。」
指原の言葉に島田が思わず、くすっと笑い声を立てた。
「やだ。さっしーだってまだいまどきのコじゃん。私達幾つだと思ってるのよ?」
「はははは。いやいや、年取るの早いもんだよ。じゃ…」

指原は手を上げて、島田と軽いハイタッチを交わした。
今でもあの5区で聞いた息遣いが伝わってくるようだ。

「あ…誰に似てるかって言うとね…」
一旦背を向けた指原が、思い出したように振り向いた。
「この国で今、一番速い人だよ。」

一番速い人?
速い…?

え?
さっしー、そういやチームメイトだったよな…

でも…

いったい、どこが似てるっていうんだろう?

国内トップランナーとして、先日の世界陸上で金メダルを取ったあの人に?

島田は、箱根路を颯爽と走る彼女の姿を思い出していた。
濃紺のシングレットにピンクの襷。

前田敦子の姿を。



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