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2.

「…こ?真子ってば。」
「ん…あ…ああ。すみません。起こしちゃいましたか?」
「いや、もう起きる時間だしね。しかし、大丈夫か?なんか、すっげーうなされてたよ?」
「大丈夫です。ちょっと変な夢見てて。」
「そっか。まあ、私もよく眠れなかったんだけどね。」
田野優花が舌をぺろっと出して笑った。
時計の針は4時を指そうとしていた。

まただ…
大事なレースの前になると決まってこの夢を見る。

もう身体はどこも痛くない。
トラックでの記録は大学生になって飛躍的に伸びた。
私は大丈夫。
もう大丈夫なはずだ。

小嶋は自分の頬を張りつけるようにして顔を洗った。
鏡に映った自分の顔を見つめる。
まるで、そこにいる別の自分に話しかけようとするかのように。

レース前も走ってるときも、楽しくて仕方なかった。
どんなにキツい場面でも、どんなに厳しい争いをしてる時でも。
走ってるのが楽しかった。
気がつけば、いつも笑っていた。

真子スマイル。

そんな風に呼ばれていたのは、いつまでだっけ?

今の私は、笑い方すら忘れてしまっている。



宿舎となっている立川市内のビジネスホテルの一室。
小嶋は試合用のウエアの上にアップコートを着込んだ。

白のシングレットにグリーンのランパン。
今日はつけないが、肩からかかるのはフラッシュグリーンの伝統の襷。
着るはずだった白地のシャツに黄色の襷ではない。
同級生…先輩達…そして、後輩の多くが身を包むユニフォームではない。

秋英大学と並んで大学駅伝界の雄、慶育大学はここ数年、本戦でのシードを確保できず予選会に回るほどの凋落を味わっていた。
それでも、伝統の襷を途絶えさせる訳にはいかない。
私が慶育に進むことを選んだのも…いや、自分に選択の余地なんてなかった。進むことになったのも、きっと何か意味があるんだ。


大きく背中をストレッチしてみる。
うん。大丈夫。

目を閉じてみる。
大丈夫。さっきの夢にはもう慣れた。

あの日から2年になろうとしている。
まだ箱根は走れていない。
昨年は、初めての予選会もフィニッシュエリアにたどり着く事が出来なかった。

今年こそ…
箱根を走る事でしか、あの日、京都の冬の風の中に置きっ放しにしたままの忘れ物を見つける事なんて出来ない気がする。



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