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1.

12月としては暖かい日だった。いや、暑いといってもいいかもしれない。
もともと汗っかきだ。特に本番のレースになると、特に体調が悪くなくてもオーバーペースになったりしなくても、大して暑くなくても序盤から大粒の汗をかく。問題ない。その分の給水には気を配ってる。脱水なんて起こしたことなんて今まで一度もない。

5キロから7キロ過ぎまでの登り…といっても、そんなに苦しいとは思えない程だ。来年、箱根に出る…出来れば2区か5区を走りたいと思っている。権太坂や箱根山中の山登りを思えば、こんなものは登りのうちに入らない。

3年連続の都大路。1年から「花の1区」を任されていきなり区間賞。昨年は二度と破られないだろうと言われた、日本陸上界のエース、前田敦子が高校3年の時に打ち立てた記録を40秒も打ち破ってみせた。今や、高校陸上界のエース、小嶋真子の足取りは軽かった。
1区に次ぐ難関と言われる3区に西野未姫、4区に主将・岡田奈々を配し、内山奈月、橋本耀、前田美月といった高校中長距離界を引っ張る存在の3年生をラインナップに並べた四ツ谷大付属高校は、圧倒的な優勝候補の筆頭に挙げられていた。


残り2キロちょっと。花の1区、10キロもあとは緩やかな坂を下っていくだけだ。小嶋は手元の腕時計をチェックした。うん。設定どおり。去年の区間新を更に15秒…これで、堂々と箱根に向けて鳴り物入りで四ツ谷大に進める…


そのとき、突然沿道からの声援が悲鳴のようなトーンに変化した。
颯爽と通り過ぎる自分を、感嘆の声で見送っていた観客が心配そうにこっちを見ている。

こっちを見ている?

私…止まってる?

なんで?

気持ちは前を向いていた。
心は折れていない。
体力もまだ余裕がある。心肺機能も失われていない。

なのに、なぜ。
ここから景色が動かないの?


ちょっと待って。
なんで、そんな簡単に私を追い抜いていくの?

愛知豊山高校の古畑奈和…
難波桐蔭の藪下柊…
博多大大濠の朝永美桜…

ライバル…なんて私は思っていなかった。
今まで彼女達の背中を見て走った事なんてない。

小嶋は空を見上げた。
冬の澄み切った空が広がっている。

行かなくちゃ…
なっきーが待ってる。

再び前を向いた小嶋の視界に茅野監督の大きな身体が飛び込んできた。

「真子…もういい。もういいから。」

いいって、何を言ってるんですか?監督。
行かなきゃ。
ねえ、なっきー?未姫?奈々?
待ってって。ちゃんとそこにいてって。
私が、この襷を渡さなきゃ…

小嶋が肩にかけているはずの襷を触ろうとした。
しかし、その手は空を掴むだけだ。

なんで、持ってくの?
それは…
それは…

私達の…
何よりも大切なものなのに。


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