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突然の来客というものは基本的に受けない事にしている。
俺に会いたいという人間は、患者だけじゃない。
金・名声・地位・権威…
俺が手にしたものの周りには、色んなヤツが群がってくる。
それ自体を否定している訳じゃない。
俺だって、弱い頃にはそんなものに纏わりついて来た。
弱い者が力を得るには、強い者の威光を借りるのが手っ取り早い。

しかし、さすがに今の俺には、弱いヤツらを相手にしてる暇というものがない。
時間を割いてもいいのは、自らに得をもたらす事が出来る場合に限られる。

だが、その日の突然の訪問者を俺は断る事なんて出来なかった。

浅黒い肌の男は、きちんとスーツを着こなしていた。
インド人は誰もが民族衣装を着て、頭にターバンを巻いている…
そんな風に思うとしたら、それはただの偏見だ。
実際、インドから海外に出ている人間は極めて優秀なヤツが多い。
アメリカのシリコンバレーなんか、研究者の多くをインド人が占めている。
インドは、今や世界に頭脳を輸出する極めて優れた国家なのだ。

男は、小さな女の子を連れていた。
やはり小奇麗なカッコをしている。日本の小学生低学年の子が着るような服を着ている。
だが、そのカッコがどことなくぎこちない。
男が一見して、高級と思われるスーツを違和感なく着こなしているのと明らかに違う。

近代化に伴い、インドでは古くからの階級制度が崩壊しつつあると言われている。
しかし、実際は「カースト」と呼ばれる身分差別は依然として残っており、数少ないとはいえ奴隷というものも存在する。奴隷は様々な苦境を強いられる。特に、その身分を生まれながらに得ていた者は、幼少期より奴隷として生きる術しかない。歪んだ性癖の大人達の慰み者とされる分にはまだ良かった。この少女も、今までどんな悲惨な境遇にあってきたのだろうか。

「シバサン、アノヒトハヤリスギマシタ。デスガ、ワタシタチモオニデハナイ。イタダイタブンノテイキョウハサセテイタダキマスヨ。」
男はそう言って笑った。
司馬が、インドでどんな交渉を行ったのかはわからない。
1億もあれば、奴隷の1人2人買い取る事は容易だっただろう。
しかし、特段の条件をつける場合にはその限りではない。
男は、さしずめ人身売買のブローカーといった所の存在なのだろう。
笑顔は浮かべているが、目が笑っていない。いや、むしろ殺気すら帯びている。
自分の利にならない相手なら、その場を立つ際に平気な顔で顔面に向かって銃口を向け、何ら感情を乱すことなく引き金を引くのだろう。

「提供する…か?その子が、我々の求めているものだと?」
「ソノトオリ。ココニ、データガアル。アナタガタガモトメテイル、ボンベイブラッドダ。シカシネ、イクラインドトイッテモ、ボンベイブラッドノシカモコドモナンテオオクハナイ。テイキョウデキルカハ、アナタシダイネ。」
「司馬にはその話をしなかったのか?」
「アノアトコハ、オレタチノコトヲシリスギタ。ヘイワニトリヒキヲスマセタカッタラ、ヨケイナジョウホウハモトメナイコトダ。」
男の口調が変わってきた。
友好的な雰囲気など、表面的なものだろう。

「何を求める?俺の持ってるものなど知れているぞ?」
「マズハ、カネダ。1オクはイタダイテイル。シカシ、それではトウテイタリナイ。アトツイカデ3オクイタダキタイ。」
まずは…という事は、他にも目的があるんだろう。
まあ、いい。
「5億出そう。で?他に要求は?」
「サスガ、ハナシガハヤイ。コレハトリヒキダ。アナタノモツ、ゾウキバイバイのネットワークニ、ワレワレヲクワエテイタダキタイ。」
「ふん…知り過ぎたのは、司馬じゃない。お前らのようだな。いいだろう。しかし、勘違いするなよ?お前らが特別という訳じゃない。中東・アフリカ・南米…幾らでも、既に構築したネットワークがあるんだ。条件は、こっちが主導する。いいな?」
「ツヨキダナ。イイダロウ。シカシ、ソクトウデ5オクカ。ヨホド、コノムスメノシンゾウガホシイラシイナ。」
「それも勘違いだ。正直、この子の心臓が必要な患者の生死には俺は全く興味はない。むしろ、ドナーなんて現れなくても良かったくらいだ。」
「??ナラ、ナゼソンナタイキンヲ?」
「司馬への香典代わりさ。」

俺は立ち上がった。
男が握手を求めてきたが、それを無視して部屋のドアを開く。


司馬…
まったくお前は、いつも余計な事をするヤツだった。
そして、いつもやり過ぎる。



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