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バチスタ手術。
テレビドラマや小説の影響で、さも拡張型心筋症の画期的治癒に貢献するものと思われがちであるが、実際はそうでなはい。
心臓が肥大化する事により、多臓器干渉、特に肺圧迫による呼吸不全や、心室膜が薄くなる事による血液循環不全、そして最も頻度の高い危機的状況としての心不全等を引き起こす。
根本的な治癒を果たすには心臓移植しかないのだが、ドナー確保が困難なため、クリティカルな状況を回避するのに、もっとも有効なのが心臓の一部を切除するバチスタという術式というだけだ。

そういう意味では、松井玲奈の今の状況は手放しで喜べるというものではない。しかも、一度は心不全を起こしてしまった心臓だ。一刻も早く対処を行わなくてはならない。


「見事だよ。もうお前を賞賛する言葉が俺には思いつかん。」
「なんだよ。気持ち悪いな。お前がそういう歯の浮くような言葉を吐く時が一番信用ならんのだよ。」
俺は司馬がいつものように軽口を叩いているものだと思って軽いトーンで言った。目線は手元の書類に目を落としたままだ。一応、病院のオーナーとして決裁を行わなくてはいけない事務仕事もこなさなくてはならない。

しばらくたっても、何の反応も返ってこない。
おや?変だな?
俺は、顔を上げて司馬の方を見た。
司馬はそのまま俺のデスクの前に立って、黙ってこっちを見ていた。
まるで、不始末を仕出かした部下が上司の叱責を待つような表情だ。

「どうした?」
俺は、書類に判を押す作業をやめ、司馬に聞いた。
「深田真夏の事だよ。」
「ん?どうした?状態に変化でもあったか?」
「いや、安定している。極めて順調って言ってもいい。」
「順調?なら、何でそんな微妙な顔をしてるんだよ?」
俺は、一応燻しがるような表情を浮かべてみた。
だが、司馬が俺の施した仕掛けに感づいている事はわかっている。
だからこそ、俺は司馬と悪魔の契約を結んでいるようなものなのだから。

「最初からそのつもりでか?そんなに松井玲奈が欲しいのか?」
「どういう意味だよ?」
「今回、お前は大きなリスクを取った。大人の心臓を子供の身体に移植すること。心不全を起こしたクランケにオンビートでバチスタを行ったこと。そして、どちらも大きなリターンを得た。難度の高い術式を成功させたという評価はもちろんそうだろう。しかし…」
「しかし?」

さすがは司馬だ。
俺の考えている事を全て読み取っている。
「しかし、お前が手にしたもっとも大きなもの。それは、松井玲奈の絶大な信頼だ。そうだろう?」
「そこまでわかってるなら、もうそれ以上言わんでもいいよ。」

「で?どれくらいもつんだ?深田真夏は。」
「そうだな…すぐって訳にはいかないからな。少なくても、いったんは回復して玲奈と談笑できるくらいになってから…だな。」
「それで…玉突きで、真夏の心臓を今度は玲奈にって寸法か。」
「どうした?まさか、真夏に憐憫の感情でもわいたか?お前、いくらロリコンってたって、あの子はまだ小学生にもなってないんだぜ?」
「馬鹿野郎。そんなんじゃねーよ。」
司馬が唾でも吐き出しそうな苦々しい表情になる。

「院長。金出して欲しいんだけどさ。あと、ちょっと長い休みも。」
「金?あと、休みだ?なんだよ、お前がバカンスとかいう柄か?」
「うるせーよ。」
何かを企んでいるんだろう。
少なくとも、リフレッシュする為に休みを取るようなメンタリティの音ではない。むしろ、人の身体を切り刻まないとストレスが溜まるタイプだ。
「幾ら欲しいんだ?」
「1億。」
金額を聞いても、俺は驚かなかった。
「表に出ない金でって事だな?」
俺が念を押すように聞いたが、司馬は黙ったままだ。
その通りって意味だろう。

「現ナマで1億ってなると運ぶこそすら大変だろう。あとで、お前の車まで運んでおくよ。トランクの中でいいな?」
「ああ。悪いな。」
「で?どこに行くんだ?」
聞かなくてもわかっていた。
聞いたところで俺がどうこう言う筋合いもないだろう。
しかし、なぜか聞いてみたくなったのだ。

「インドだよ。」
司馬は、そう言って俺に背を向けた。

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Comment

No title

インドと聞いて、ジャカルタを想像してしまうのは自分だけでしょうか?(笑)
ジャカルタ移籍組が登場することを願いつつ、これからも楽しみに読ませて戴きます。

2013.12.28 (Sat) | 凛九郎 #- | URL | Edit

No title

>> 凛九郎さん

すみません…
司馬が向うのはインドでして…

2013.12.30 (Mon) | 四谷 #mQop/nM. | URL | Edit

No title

あっ、ご免なさい…ジャカルタはインドネシアでしたね。
自分の無知をネットに晒してしまった~恥ずかしい。(苦笑)

2013.12.30 (Mon) | 凛九郎 #- | URL | Edit

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